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第70話
しおりを挟む「そういえば、もう少しで卒業式ね。
でも丁度フェリックスは国境沿いから帰って来る道中だろうから……ダンスパーティーにエスコート出来なくてごめんなさいね」
「いえ……」
『いつものことなので』と言うのは流石に憚られた。夫人を困らせたい訳じゃない。
「やっと王太子殿下も戻るし、ステファニーも、もう寂しくないでしょうしね。あの子もフェリックスを兄の様に慕っていたけど、そろそろ甘えるのをやめなきゃね。お互い結婚が近いのだから」
侯爵夫人にとってステファニー様は従姉妹の子ども。フェリックス様の可愛い幼馴染だろう。
「そうですね」
私は曖昧に微笑むだけにしておいた。
今日、ここに来る前にステファニー様と言い合いをしただなんて絶対言えない。
「そうだ!本当は前日に届けさせるつもりだったんだけど、我慢出来ないから見せちゃう!」
まるで少女の様に手を叩いてはしゃぐ夫人に私は少し意外に思いながらも、尋ねた。
「えっと……何をでしょう?」
「ちょっと来て」
いたずらっぽくウィンクした夫人は私をある部屋へと私を案内した。
「これは……?」
「フフフ。貴女の卒業式にとフェリックスが準備させた物よ。街の仕立て屋に頼んだって言ってたんだけど、あんな凄腕の仕立て屋どこで知ったのかしら……?」
部屋の真ん中のトルソーに掛けられたそのドレスはフェリックス様の瞳の色がもっと濃くなって、まるで真夜中の夜空の様な紺色だった。そこに星の瞬きの様な金の刺繍が散りばめられていてキラキラと細かく光っていた。
「綺麗……」
そのドレスに見とれて立ち尽くす私の目の前に青色のベルベットの箱が差し出された。
箱を手にした私が夫人の顔をちらりと見ると、夫人は微笑んで頷いた。
私はそれを合図にそっと箱を開く。そこには三日月の形をした金のイヤリングと、ダイヤが散りばめられた紺色のリボンのチョーカーが入っていた。
「いやらしいぐらい自分の色でしょう?フェリックスの独占欲が形になったドレスね。でも……あの子が必死にその仕立て屋と相談して作らせたの。
まさかこんなに早く仕上がるとは思っていなかったんだけど……貴女のドレスは一度作った事があるからって。採寸し直さなかったけど、大丈夫かしらね?」
その言葉に私にはこのドレスの製作者が名前を訊かずとも、分かってしまった。
うーん……これは……デービス様にも話を聞く必要がありそうだ、と私は考えていた。
しかし……
「でも、フェリックスにこんなセンスがあると思っていなかったわ。我が息子の事だけれど、改めて知ることってあるのね」
と言う夫人の言葉に、私も激しく同意した。
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