本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶

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第50話

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「とんでもない!僕がマーガレットを手離す事は有り得ません!」
フェリックス様はテーブルの上に置いた手の拳をギュッと握った。

父もその答えが意外だったのか、

「ではどういう事だ?君はマーガレットをどうしたいんだ?」
と尋ねる。
今までのフェリックス様の行いや態度には、父も母も思う所がある筈だ。

「どうって。マーガレットが教師になりたいのならそうすれば良い。だからと言って結婚出来ない事はありません。僕の妻として……教壇に立てば良い」
フェリックス様の言葉にデービス様が口を開く。

「この国で侯爵夫人でありながら教師をしている者など聞いた事がない。女性の社会進出が進んでいる国ならいざ知らず。伯爵はそれを心配しているんだろ?」
フェリックス様はチラリとデービス様を見てからこう言った。

「前例が無いなら作れば良い。ただそれだけだ」

「ふーん……でもそんな二足のわらじみたいな器用な事、メグに出来るかな……」

「メグって呼ぶな。馴れ馴れしい」

二人の間に何やら不穏な空気が漂う。デービス様はそれを何処となく楽しんでいる様だが、フェリックス様はデービス様に心底不快感を抱いている様な顔でそう言った。

「メグはメグだ。メグは君の所有物じゃないよ。それに僕がどう呼ぼうと勝手だろ?君に指図される覚えはない」

「貴様!!子爵のくせに……っ!」

「あ!それそれ。こんな時に身分を振りかざすのはみっともないよ。メグが伯爵令嬢だからって自分の思い通りに出来ると思った?邪険に扱って良い存在だと?」

その言葉にフェリックス様は、

「そんな!!」
と反論しようとするが、父も、

「……うちの娘が冷遇されていたのは事実だと思っているよ。さっき『マーガレットを手離す事はない』と君は言ったが、マーガレットが不幸になるのを見過ごす事は出来ない。これでも父親なんでね」
そう言ってフェリックス様の今までの行いを暗に責めた。

「僕は子爵を継ぐわけではないし、メグを幸せにしてあげる……なんて約束は出来ない。だから結婚を申し込むなんて馬鹿な事はしないが、君よりメグを笑顔に出来る自信はあるよ」

デービス様の言葉に今度は私が目を丸くした。『結婚』?デービス様の口からその言葉が出た事に私は心から驚いていた。確かに一緒に旅をしようとは言われたけれど……。

「平民になるお前にマーガレットを笑顔に出来ると言うのか?!」

「あぁ!君よりね。君はメグの笑顔を最近見たことがあるの?」

デービス様の言葉にフェリックス様が押し黙る。……笑顔。フェリックス様の前で笑顔になったのは、もうずーっと昔の事だ。
しかし、デービス様と父に責められて拳を握りながらも、

「それでも……僕はマーガレットを手離しません。デービス……お前にも渡さない。絶対に」
と声を震わせたフェリックス様に何故か私は胸が苦しくなった。



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