50 / 129
第50話
しおりを挟む「とんでもない!僕がマーガレットを手離す事は有り得ません!」
フェリックス様はテーブルの上に置いた手の拳をギュッと握った。
父もその答えが意外だったのか、
「ではどういう事だ?君はマーガレットをどうしたいんだ?」
と尋ねる。
今までのフェリックス様の行いや態度には、父も母も思う所がある筈だ。
「どうって。マーガレットが教師になりたいのならそうすれば良い。だからと言って結婚出来ない事はありません。僕の妻として……教壇に立てば良い」
フェリックス様の言葉にデービス様が口を開く。
「この国で侯爵夫人でありながら教師をしている者など聞いた事がない。女性の社会進出が進んでいる国ならいざ知らず。伯爵はそれを心配しているんだろ?」
フェリックス様はチラリとデービス様を見てからこう言った。
「前例が無いなら作れば良い。ただそれだけだ」
「ふーん……でもそんな二足のわらじみたいな器用な事、メグに出来るかな……」
「メグって呼ぶな。馴れ馴れしい」
二人の間に何やら不穏な空気が漂う。デービス様はそれを何処となく楽しんでいる様だが、フェリックス様はデービス様に心底不快感を抱いている様な顔でそう言った。
「メグはメグだ。メグは君の所有物じゃないよ。それに僕がどう呼ぼうと勝手だろ?君に指図される覚えはない」
「貴様!!子爵のくせに……っ!」
「あ!それそれ。こんな時に身分を振りかざすのはみっともないよ。メグが伯爵令嬢だからって自分の思い通りに出来ると思った?邪険に扱って良い存在だと?」
その言葉にフェリックス様は、
「そんな!!」
と反論しようとするが、父も、
「……うちの娘が冷遇されていたのは事実だと思っているよ。さっき『マーガレットを手離す事はない』と君は言ったが、マーガレットが不幸になるのを見過ごす事は出来ない。これでも父親なんでね」
そう言ってフェリックス様の今までの行いを暗に責めた。
「僕は子爵を継ぐわけではないし、メグを幸せにしてあげる……なんて約束は出来ない。だから結婚を申し込むなんて馬鹿な事はしないが、君よりメグを笑顔に出来る自信はあるよ」
デービス様の言葉に今度は私が目を丸くした。『結婚』?デービス様の口からその言葉が出た事に私は心から驚いていた。確かに一緒に旅をしようとは言われたけれど……。
「平民になるお前にマーガレットを笑顔に出来ると言うのか?!」
「あぁ!君よりね。君はメグの笑顔を最近見たことがあるの?」
デービス様の言葉にフェリックス様が押し黙る。……笑顔。フェリックス様の前で笑顔になったのは、もうずーっと昔の事だ。
しかし、デービス様と父に責められて拳を握りながらも、
「それでも……僕はマーガレットを手離しません。デービス……お前にも渡さない。絶対に」
と声を震わせたフェリックス様に何故か私は胸が苦しくなった。
3,422
お気に入りに追加
6,141
あなたにおすすめの小説
出ていけ、と言ったのは貴方の方です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
あるところに、小さな領地を治める男爵家がいた。彼は良き領主として領民たちから慕われていた。しかし、唯一の跡継ぎ息子はどうしようもない放蕩家であり彼の悩みの種だった。そこで彼は息子を更生させるべく、1人の女性を送りつけるのだったが――
※コメディ要素あり
短編です。あっさり目に終わります
他サイトでも投稿中

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう!
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「ランドルフ様、私との婚約を解消しませんかっ!?」
子爵令嬢のミリィは、一度も対面することなく初恋の武人ランドルフの婚約者になった。けれどある日ミリィのもとにランドルフの恋人だという踊り子が押しかけ、婚約が不本意なものだったと知る。そこでミリィは決意した。大好きなランドルフのため、なんとかしてランドルフが真に愛する踊り子との仲を取り持ち、自分は身を引こうと――。
けれどなぜか戦地にいるランドルフからは、婚約に前向きとしか思えない手紙が届きはじめる。一体ミリィはつかの間の婚約者なのか。それとも――?
戸惑いながらもぎこちなく心を通わせはじめたふたりだが、幸せを邪魔するかのように次々と問題が起こりはじめる。
勘違いからすれ違う離れ離れのふたりが、少しずつ距離を縮めながらゆっくりじりじりと愛を育て成長していく物語。
◇小説家になろう、他サイトでも(掲載予定)です。
◇すでに書き上げ済みなので、完結保証です。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる