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第42話  sideフェリックス

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〈フェリックス視点〉

『僕はもう少しで留学する予定だ』

『留学?』
殿下から初めて聞く話に俺は無意識に聞き返していた。

『あぁ。陛下が見聞を広めるのは早いほうが良いという考えなんだ。あとひと月もすれば僕は十二歳になる。そうすれば出発だ』

『それはいつまで?』

『そうだな……最低でも三年。だが、期間は決めていないんだ』

殿下が留学する……それは理解したが、それと秘密の任務とには何の関係があるのだろう。不思議に思っていると、

『フェリックス、お前、ステファニーとは幼馴染だな?』
と殿下は自分の婚約者の名前を告げた。

ステファニー・アンダーソン。アンダーソン公爵の娘で、殿下の婚約者だ。
アンダーソン公爵は我が国の宰相だし、生まれながらに二人の婚約は決められていた。
うちの母親とステファニーの母親がいとこ同士ということもあり、俺は幼い頃からステファニーを知っていたし、二つ歳下のステファニーの面倒を何かと見ていた……が、本音を言えば俺はステファニーが苦手だった。
ステファニーは外面は良かったから大人受けは抜群だったが、わがままで気性が荒かった。
だがそれを母に訴えても信じてもらえず、ステファニーの天使の様な見た目と外面に大人達はすっかり騙されており、俺は子どもなんてそんなもんだと無理矢理自分を納得させていた。

そんな気持ちが俺の顔に出ていた様だ。

『……お前、ステファニーが苦手か?』

『い、いえ……そういう訳では……』
殿下の婚約者を苦手だとは言えない。

『ふむ……そうか。実はな、僕が留学に行っている間、ステファニーの面倒をみてもらいたいんだ。
僕はステファニーの側に居る事は出来ない。だから僕の代わりに彼女を守って欲しい。近衛になってからも、ステファニーを守れ。
後に僕が国王になった暁には、お前を団長に……そして僕の側近にしてやろう。どうだ?簡単な話だろう?』

それだけ聞けば簡単な話だ。三年間、ステファニーの面倒をみれば良い。今までだって面倒はみてきた。その延長のようなものだと思えば問題ない。

『……約束していただけますか?』

『もちろん。念書を書こう。だが、これは僕とお前との秘密だ。……そう言えばお前にはまだ婚約者が居なかったな?』

そこで俺は思い出した。

『実は今日の午後、初顔合わせの予定です』

婚約者が決まったと聞いたのは昨日だった。父が嬉しそうに決まったぞ!と言ってきたのを苦々しい気持ちで思い出した。

『何だその顔は。気に入らない相手なのか?』

『……伯爵令嬢なのです』

何処の誰だという事より〈伯爵令嬢〉という事が気に入らなかった。父は悔しくないのだろうか?自分に向けられた身分による区別……いや差別を。

『コンプレックスの塊だな』
そう笑う殿下をつい睨んでしまった。人の気も知らないで。身分の頂点に立つ者には分かるまい。

『大臣補佐のロビー伯爵の娘です。十歳になります』

『ロビー伯爵か。彼はなかなか良い男だ。だが、その娘より、ステファニーを優先して欲しい。彼女は次期王太子妃だからな』

『それは大丈夫です。お約束します』

俺はその時は本気でそう思っていた。殿下に与えられた〈秘密の任務〉だから……というだけでなく、伯爵家の娘なんて……それなりに扱っておけば良いという驕った考えからだった。

だが……俺はそのひと月後に生まれて初めての恋をする。
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