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第40話 sideフェリックス
しおりを挟む〈フェリックス視点〉
『どうぞ、安心して婚約解消して下さい!!』『……婚約解消して下さい!!』『……解消して下さい!!』
……はて?今彼女は何て言ったんだ?
彼女の言葉が頭を中をこだましているのだが、ちっとも理解出来ない。
婚約解消?婚約解消って何だっけ?食べ物?いや、違う、調理器具だったかな?婚約解消、婚約解消、婚約解消……俺の知っている言葉じゃなさそうだ。
「……リックス様?フェリックス様?フェリックス様大丈夫です?聞こえていますか?」
ふと我に返ると、俺の愛しい婚約者が直ぐ側まで近づき、心配そうに俺の目の前で手を振っていた。可愛い……。いや、いかん……意識が遠くに言っていた様だ。
俺はポカンと開けっ放しだった口を慌てて閉じる。彼女に間抜け面を晒してしまった。
「……き、聞こえているが、今、お前は何と言った?」
口をぽっかり開けていたせいか、口の中が渇いて上手く言葉が出ない。俺は急いでカップに残ったお茶を一気に飲んだ。温くて助かった。
彼女はまたテーブルの向こうの椅子に腰掛けながら、
「はぁ~緊張しましたが、ちゃんとお伝え出来て良かったです。もうお邪魔はいたしませんので、ステファニー様とお幸せに」
「ステファニーと?幸せ?ステファニーは王太子妃になるんだが?」
混乱の極みとは今の状態を言うのだろう。俺がそう言うと、彼女は少しだけ辛そうな顔をして、
「そう考えるとフェリックス様もお辛いでしょうが、それでもステファニー様とのお約束を守る事は出来ます。良かったですね」
「約束?俺はステファニーと約束なんてしてないぞ……というか、それよりもう一度さっき言った事を言ってくれ。ちょっと意味がよく分からなくて……」
喉が渇く。もう一度、カップを持ち上げて空っぽな事に気づく。クソッ!
「あ、もう一杯お茶を淹れましょうか?メイドを呼びますね」
「い、いや……それよりさっきの話だが……」
すると、我が家の執事がサロンに急ぎやって来た。
マーガレットとのお茶会の時は邪魔をするなと言っておいたのに……。
「も、申し訳ございません。あの……アンダーソン公爵令嬢様が急ぎの用があると……」
「は?今日だけは無理だと言っておいただろう?」
あの馬鹿女。今日ぐらいは自由にさせてくれと言ったのに!俺はイライラしながら、執事に答える。すると、
「フェリックス様、直ぐにステファニー様の元へ行かれて下さい。私は話したい事を話せましたし。あとは……侯爵様と父とのお話になるかと思いますが、先ほど言った様に私はもう大丈夫ですので」
そう笑顔で言った彼女はさっさと席を立つ。
「ま、待て!!話は終わっていない!!」
必死な俺の後ろから執事が、
「フェリックス様……公爵令嬢様が……」
と控えめながらも圧をかけてきた。
「それでは、失礼いたしますね。フェリックス様、長い間お世話になりました」
彼女はペコリと頭を下げて、俺が贈った古い本を抱えて扉へと向かう。
「ま、待って!!待ってくれ!!」
俺は彼女を追いかけようと席を立つが、執事がまた、
「フェリックス様急ぎませんと……」
とさっきより強めの圧をかけてきた。
そうしている間に、彼女は扉を開けて軽やかに部屋を出ていってしまったのだった。
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