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第39話
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「実は……王太子殿下が留学から帰国する日が決まったらしい」
緊張で少し強張った様な顔のフェリックス様はそう切り出した。
「あ……そうなのですか。それはいつ頃……?」
「今のところ、半年後の予定だ」
半年後。既に私も学園を卒業している頃だ。
実は私とフェリックス様の結婚時期は、はっきりとは決っていない。まぁ、私が学園を卒業した後である事は間違いないのだが、卒業して直ぐなのか、半年後なのか、一年後なのか……いや、もっとそれ以上先なのか。全く決っていなかったのだ。フェリックス様にとっては決めたくなかった事柄なのかもしれない。
殿下が半年後に帰国するという事は、ステファニー様が王太子妃になる日も近いという事だ。
ステファニー様も学園を卒業しているし、もう何の障害もない。準備があるとはいえ、何年も先になるという事はないだろう。
フェリックス様がこの話をするという事は……やはりステファニー様の専属騎士になりたいから、婚約を白紙に戻して欲しいというお話なのだろう。
今日のお茶会の雰囲気がいつもと違ったのは、そういう事だと想像出来る。
「殿下が留学してもう十年程。ステファニー様も首を長くしてお待ちだったでしょう」
そんな私の言葉に、フェリックス様は力強く頷いて、
「あぁ。俺も随分とこの時を待った。殿下が十二歳で留学するとは思っていなかったが……陛下は幼い内に色々な事を学んで欲しいと常々思っていたらしいからな。殿下も陛下のお気持ちに賛同していたし。だが……まさかここまで長いとはな」
と感慨深くそう言った。
ステファニー様が王太子妃になれば……フェリックス様もステファニー様を守るという約束を果たせる。やっとフェリックス様の夢が叶うという事だろう。殿下の帰りを待っていたのは、フェリックス様も同じだ。
「そうですね。でもきっとたくさん得るものがあったのでしょう」
「……そこで……だ。俺達の……その……け、結婚につ、ついて……」
フェリックス様……とっても言いにくそう。そうよね。やはり婚約解消というのは、簡単な事ではない。私の今後が心配……そういう気持ちもあるのかもしれない。
よし!!ここは私がフェリックス様の肩の荷を下ろして差し上げなければ!
躊躇いがちに言葉を選んでいるフェリックス様の言葉を遮る様に、私は意を決して手を挙げた。
「あの!すみません!私も……私もお話があるのです。私達の結婚について!!」
力が入りすぎて、思っていたより大きな声が出てしまったが、ここで引いてはダメだ。
「お、お前も?話?それはなんだ?」
私の大きな声に押され、フェリックス様は私に話を譲ってくれた。
「実は……私、教師を目指そうと思っています!」
「は??教師??何だそれは?何故お前が??」
フェリックス様は目を白黒させている。
今の『教師??何だそれは?』は教師の意味を尋ねているのではない事は明白だろう。私は自分の気持ちを伝える。
「ずっと考えておりました。婚約を解消された女性は何故、その後肩身の狭い思いをして暮らさなければならないのか。婚約解消にもきっとそこには理由があるはずです。それがどうしようもない事も。では、そうならない為にはどうするか。それは女性が自立して独りで生きていく力をつければ良いのだと気付いたのです!」
私の力説に押され、フェリックス様は口を挟む事なく話を聞いている。よし、この調子で最後まで一気に話してしまおう。
「今回、色々な御縁から私は教師を目指す事にしました。もちろん試験に合格する事が必須ですが、学園を卒業したら、直ぐに採用試験を受ける手筈も整えております。例え試験に落ちたとしても、私は諦めません。……ですので、もう私の心配をしていただかなくて大丈夫なのです」
「……お前……何を言っているんだ?お前が教師になりたいというのは分かったが、その理由がちっとも……」
「ですから!!フェリックス様は安心して専属騎士になってください」
「専属騎士???お前……何を言って……」
「フェリックス様……どうぞ、安心して婚約解消して下さい!!」
私はとうとう、フェリックス様に自分の思いの丈をぷつける事が出来た。
……フェリックス様の口がアワアワと震えているのが気になるけど。……なんだか陸に上がったお魚みたい。
緊張で少し強張った様な顔のフェリックス様はそう切り出した。
「あ……そうなのですか。それはいつ頃……?」
「今のところ、半年後の予定だ」
半年後。既に私も学園を卒業している頃だ。
実は私とフェリックス様の結婚時期は、はっきりとは決っていない。まぁ、私が学園を卒業した後である事は間違いないのだが、卒業して直ぐなのか、半年後なのか、一年後なのか……いや、もっとそれ以上先なのか。全く決っていなかったのだ。フェリックス様にとっては決めたくなかった事柄なのかもしれない。
殿下が半年後に帰国するという事は、ステファニー様が王太子妃になる日も近いという事だ。
ステファニー様も学園を卒業しているし、もう何の障害もない。準備があるとはいえ、何年も先になるという事はないだろう。
フェリックス様がこの話をするという事は……やはりステファニー様の専属騎士になりたいから、婚約を白紙に戻して欲しいというお話なのだろう。
今日のお茶会の雰囲気がいつもと違ったのは、そういう事だと想像出来る。
「殿下が留学してもう十年程。ステファニー様も首を長くしてお待ちだったでしょう」
そんな私の言葉に、フェリックス様は力強く頷いて、
「あぁ。俺も随分とこの時を待った。殿下が十二歳で留学するとは思っていなかったが……陛下は幼い内に色々な事を学んで欲しいと常々思っていたらしいからな。殿下も陛下のお気持ちに賛同していたし。だが……まさかここまで長いとはな」
と感慨深くそう言った。
ステファニー様が王太子妃になれば……フェリックス様もステファニー様を守るという約束を果たせる。やっとフェリックス様の夢が叶うという事だろう。殿下の帰りを待っていたのは、フェリックス様も同じだ。
「そうですね。でもきっとたくさん得るものがあったのでしょう」
「……そこで……だ。俺達の……その……け、結婚につ、ついて……」
フェリックス様……とっても言いにくそう。そうよね。やはり婚約解消というのは、簡単な事ではない。私の今後が心配……そういう気持ちもあるのかもしれない。
よし!!ここは私がフェリックス様の肩の荷を下ろして差し上げなければ!
躊躇いがちに言葉を選んでいるフェリックス様の言葉を遮る様に、私は意を決して手を挙げた。
「あの!すみません!私も……私もお話があるのです。私達の結婚について!!」
力が入りすぎて、思っていたより大きな声が出てしまったが、ここで引いてはダメだ。
「お、お前も?話?それはなんだ?」
私の大きな声に押され、フェリックス様は私に話を譲ってくれた。
「実は……私、教師を目指そうと思っています!」
「は??教師??何だそれは?何故お前が??」
フェリックス様は目を白黒させている。
今の『教師??何だそれは?』は教師の意味を尋ねているのではない事は明白だろう。私は自分の気持ちを伝える。
「ずっと考えておりました。婚約を解消された女性は何故、その後肩身の狭い思いをして暮らさなければならないのか。婚約解消にもきっとそこには理由があるはずです。それがどうしようもない事も。では、そうならない為にはどうするか。それは女性が自立して独りで生きていく力をつければ良いのだと気付いたのです!」
私の力説に押され、フェリックス様は口を挟む事なく話を聞いている。よし、この調子で最後まで一気に話してしまおう。
「今回、色々な御縁から私は教師を目指す事にしました。もちろん試験に合格する事が必須ですが、学園を卒業したら、直ぐに採用試験を受ける手筈も整えております。例え試験に落ちたとしても、私は諦めません。……ですので、もう私の心配をしていただかなくて大丈夫なのです」
「……お前……何を言っているんだ?お前が教師になりたいというのは分かったが、その理由がちっとも……」
「ですから!!フェリックス様は安心して専属騎士になってください」
「専属騎士???お前……何を言って……」
「フェリックス様……どうぞ、安心して婚約解消して下さい!!」
私はとうとう、フェリックス様に自分の思いの丈をぷつける事が出来た。
……フェリックス様の口がアワアワと震えているのが気になるけど。……なんだか陸に上がったお魚みたい。
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