38 / 44
第38話
しおりを挟むいよいよ、最後?かもしれないお茶会の日がやってきた。
私はフェリックス様から貰った本を抱えて家を出る。
ハウエル侯爵家までの道のりを馬車の窓から眺める。
いつもフェリックス様とのお茶会は気が重かった。何を話せば良いのかとか、何を言われるのか……とか。それを考えると段々と心が曇っていくのを感じていた。しかし、今日はもう違う。
私の心は今日の晴れた空の様にスッキリしている。ほんの少しの寂しさを抱えてはいるが。
侯爵家に着くと、いつものサロンに案内される。侯爵家でのお茶会といえば、このサロンだ。
すると珍しい事にフェリックス様が既に待っていた。
この前のカフェでの出来事が思い出され、私は咄嗟に謝罪した。
「お待たせして申し訳ありま……」
「約束の時間まではまだある。直ぐに謝るな」
「は……はい。すみま……」
「謝るな」
……あれ?さっきまでスッキリと晴れていた心が、曇り始める。
いやいや、今日は私の気持ちをきちんと伝えると決めたじゃないか。折れるな!心!と私は自分を鼓舞した。
「はい……」
「突っ立っていないで座ったらどうだ」
自分の前の椅子を指し示すフェリックス様に頷いて、私は椅子に腰掛けた。
「………………」
「………………」
沈黙が二人の間に積もる。するとフェリックス様が私が抱えて来た本に気付いた。
「それは……」
「フェリックス様から頂いた本です。昨日ふと目についてまた読み直してしまいました」
私は二人の間にあるテーブルにその本を乗せた。何度も何度も繰り返し読んだ本の表紙は少しくたびれていた。愛おしさを感じてそっとその表紙に私は手を重ねた。
「随分前になるな」
「はい。婚約が整って……翌月の私のお誕生日に下さいましたね。もう十年になります」
「もうそんなになるか……」
今日は何故かちゃんと会話が続いている。最後かもしれないというのに、皮肉なものだ
「……大切にしてくれていたのだな」
テーブルに置かれた本に視線を注ぎながらフェリックス様が言った。
「はい。私が『本の虫』になるきっかけをくれた本です」
「翌月のお茶会で……お前が興奮しながらその本について語っていたのを覚えてるよ」
私もその時を思い出す様に頷いて、
「ええ。すっかり夢中になって私ばかりお喋りしてしまって……フェリックス様に怒られましたよね?」
「怒った?!!俺は怒ったりした覚えはない!」
フェリックス様の大きな声に、私はビクッとなる。
「す、すみません……」
私はまた咄嗟に謝罪した。
「い、いや……すまん。大きな声を出して驚かせてしまった。……実は今日は、お前に話があってな」
珍しい……フェリックス様が私に謝っている……。
そして……話があると言ったフェリックス様の顔は少し緊張しているように見える。もしかすると……私とフェリックス様の気持ちは同じなのかもしれない。
3,090
お気に入りに追加
6,497
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
待ち遠しかった卒業パーティー
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。
しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。
それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
【完結】可愛くない、私ですので。
たまこ
恋愛
華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。
そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる