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第38話

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いよいよ、最後?かもしれないお茶会の日がやってきた。
私はフェリックス様から貰った本を抱えて家を出る。


ハウエル侯爵家までの道のりを馬車の窓から眺める。
いつもフェリックス様とのお茶会は気が重かった。何を話せば良いのかとか、何を言われるのか……とか。それを考えると段々と心が曇っていくのを感じていた。しかし、今日はもう違う。
私の心は今日の晴れた空の様にスッキリしている。ほんの少しの寂しさを抱えてはいるが。

侯爵家に着くと、いつものサロンに案内される。侯爵家でのお茶会といえば、このサロンだ。
すると珍しい事にフェリックス様が既に待っていた。
この前のカフェでの出来事が思い出され、私は咄嗟に謝罪した。

「お待たせして申し訳ありま……」

「約束の時間まではまだある。直ぐに謝るな」

「は……はい。すみま……」

「謝るな」

……あれ?さっきまでスッキリと晴れていた心が、曇り始める。
いやいや、今日は私の気持ちをきちんと伝えると決めたじゃないか。折れるな!心!と私は自分を鼓舞した。

「はい……」

「突っ立っていないで座ったらどうだ」

自分の前の椅子を指し示すフェリックス様に頷いて、私は椅子に腰掛けた。

「………………」

「………………」
沈黙が二人の間に積もる。するとフェリックス様が私が抱えて来た本に気付いた。

「それは……」

「フェリックス様から頂いた本です。昨日ふと目についてまた読み直してしまいました」

私は二人の間にあるテーブルにその本を乗せた。何度も何度も繰り返し読んだ本の表紙は少しくたびれていた。愛おしさを感じてそっとその表紙に私は手を重ねた。

「随分前になるな」

「はい。婚約が整って……翌月の私のお誕生日に下さいましたね。もう十年になります」

「もうそんなになるか……」

今日は何故かちゃんと会話が続いている。最後かもしれないというのに、皮肉なものだ

「……大切にしてくれていたのだな」
テーブルに置かれた本に視線を注ぎながらフェリックス様が言った。

「はい。私が『本の虫』になるきっかけをくれた本です」

「翌月のお茶会で……お前が興奮しながらその本について語っていたのを覚えてるよ」

私もその時を思い出す様に頷いて、

「ええ。すっかり夢中になって私ばかりお喋りしてしまって……フェリックス様に怒られましたよね?」

「怒った?!!俺は怒ったりした覚えはない!」

フェリックス様の大きな声に、私はビクッとなる。

「す、すみません……」
私はまた咄嗟に謝罪した。

「い、いや……すまん。大きな声を出して驚かせてしまった。……実は今日は、お前に話があってな」

珍しい……フェリックス様が私に謝っている……。

そして……話があると言ったフェリックス様の顔は少し緊張しているように見える。もしかすると……私とフェリックス様の気持ちは同じなのかもしれない。
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