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第29話

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何故か面白そうに『ならこれを薦めるよ』とサーフィス様に手渡された恋愛小説を片手に、私は図書館を後にした。

翌日は図書館の閉館日であった為、私はまた本屋に来ていた。
昨日、サーフィス様に薦められた恋愛小説は、思いの外面白かった。サーフィス様が話していた、素直になれないヒーローと少し鈍感なヒロインの話。
読んでいる私としてはもどかしくて少しイライラしたのだが、不器用なヒロインが可愛くて、物語には素直に引き込まれた。

恋愛小説も今までは食わず嫌い……もとい読まず嫌いだった事を反省し、今日は珍しく恋愛小説の棚を物色していると、

「お姉さん!」
と背後から声をかけられた。

「あら?また会ったわね。えっと……アマリリスね?」

明るめの茶色の髪を二つ結びにした少女は私の答えにニッコリと微笑んだ。

「この前薦めてくれた本、物凄くためになったわ。次に会えたらお礼を言わなきゃって思ってたの」

「お礼なんて……。でもお役に立てたのなら嬉しいわ」

「これで次の課題もバッチリ……と言いたいところだけど、まだまだね。実は家庭教師と気が合わなくて……」
と口を尖らすアマリリスに、

「まぁ……人にも相性はあるものね。私も学園に通う前は本の知識ばかり披露して、家庭教師の先生に『私は必要ないって事ですか?』って嫌味を言われてしまったの。でも、良く考えたら失礼だったって今なら分かるわ」
と私も幼い頃の自分の失敗を話して聞かせた。

「どうして貴族に生まれたからって頭が良いって思われるのかしら?お兄様は確かに出来が良いの。でも私は……」
とアマリリスは少し目を伏せる。彼女の長いまつ毛が顔に影を落とした。

「お兄様がいらっしゃるの?」
私が少し話題を変える様にそう言うと、アマリリスはパッと顔を上げて、

「ええ。私の自慢のお兄様なの」
と明るく笑った。

きっと兄の事が好きなのだろう事が、その笑顔から窺える。

「素敵なお兄様なのね」

「そうなの!お兄様は今年から学園に通ってて、とっても楽しいって。私も二年後学園に通うのを楽しみにしているのだけど、このままだとお兄様に恥をかかせてしまいそう……」

「そんな……きっとお兄様はそんな事気になさらないわ。でも……今年から学園に通っているのなら私も知っているかも……」
そう私が言ったその時、本屋の入り口の方から、

「リリーどこだい?」
と声が聞こえる。

「お兄様!ここよ!」
目の前の少女は振り返りながら大きな声で答えると、

「あぁ、ここに居たのか」
と現れた男性を見て私は驚いた。

「ジェフリー様!」

「おや?マーガレット嬢じゃないか。二人は……知り合い?」
とアイーダ様の婚約者のジェフリー様が私とアマリリスの顔を交互に見ながらそう尋ねた。
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