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第26話
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フェリックス様を待っている間、私の心臓はドキドキしていた。当然、婚約者に会えるから……ではなく、やはり仕事中にこんな所まで来たことを怒られるのではないかという不安から。
私は怯みそうになる弱い心を振り払う様に首をブンブンと横に振った。
眼鏡がズレる。私がそれを直しながら門番が去って行った方へと顔を向けると、向こうから凄い形相でフェリックス様が走って来ているのが見える。……やっぱり怖いかもしれない。
遥か遅れて、フェリックス様を呼びに行った門番が『おい!』と言いながら追いかけて来ているのだが、フェリックス様はお構いなしだ。
フェリックス様は私の目の前まで来ると勢い良く止まり、
「何故、ここに居るんだ?!家に帰っている時間だろう?!」
と、私が口を開く前に、一気に捲し立てた。
「あ、あの……」
私が口を開こうとすると、
「今日はお茶会だと手紙を送った筈だが?まさか、ここまで歩いてきた訳ではないだろうな?馬車は?馬車は何処だ?ほら、さっさと帰れ。いいか、真っ直ぐに帰るんだ。決して図書館に寄るんじゃないぞ」
と全く私の話など聞かずに一方的に喋り続けるフェリックス様。
「今日はもう少し仕事が残っているが……」
とフェリックス様が言いかけた時、他の門番が、
「おい、フェリックス。お前の所の護衛が……」
と話しかけて来た。その瞬間、
「フェリックス様!!!大変です!!姫が……!!」
とハウエル家の護衛が慌てた様子で駆けて来た。
「あ!ば、ばか!!」
フェリックス様はその護衛の姿を認めると、これまた慌てた様子でそう叫ぶ。
護衛は『ばか』と言われた言葉にハッ!として、フェリックス様の目の前の私に視線を送ると、自分の口を勢いよく手で塞いだ。何か不味いことでも口走ったのかもしれない。
私の顔を見てのその態度……。きっと、護衛の口走った『姫』というのはステファニー様の事だろう。何故ハウエル家の護衛がステファニー様の事で慌てているのか……私にはさっぱり見当もつかないが、ステファニー様の身に何か恐ろしい事が起きているのかもしれない。フェリックス様に言われた通り今日は大人しく帰った方が良さそうだ。
しかし結局、私は何も話が出来ていない。と言うか口も挟ませて貰えなかった。あぁ……何の為にここまで来たのだろう。
このままでは、また図書館に行けない日々が続いてしまう。きっとこの様子だと今日もまたお茶会はキャンセルされる事だろう。
私は意を決して、
「フェリックス様、お忙しいようなので私は帰ります。もちろん、今日のお茶会は中止で構いませんので。でも!……あの……せめて、お茶会の日にちをきちんと決めませんか?気まぐれに、思いつきで、突発的に行うのではなく、ちゃんと。……そうですね、前の様に二ヶ月……いや、三ヶ月に一度、フェリックス様の休日の日にしましょう。では、失礼いたします」
早口で言いたい事だけ言って、頭を下げた。
少しだけ恨み節が混じったのは、せめてもの抵抗だと思ってもらいたい。
私は否定されるのも嫌なので、さっさと踵を返す。
「おい!!」
とフェリックス様の声が追いかけて来る様に聞こえるのを、丸っと無視して私は早足で馬車止まりまで急いだ。
私は怯みそうになる弱い心を振り払う様に首をブンブンと横に振った。
眼鏡がズレる。私がそれを直しながら門番が去って行った方へと顔を向けると、向こうから凄い形相でフェリックス様が走って来ているのが見える。……やっぱり怖いかもしれない。
遥か遅れて、フェリックス様を呼びに行った門番が『おい!』と言いながら追いかけて来ているのだが、フェリックス様はお構いなしだ。
フェリックス様は私の目の前まで来ると勢い良く止まり、
「何故、ここに居るんだ?!家に帰っている時間だろう?!」
と、私が口を開く前に、一気に捲し立てた。
「あ、あの……」
私が口を開こうとすると、
「今日はお茶会だと手紙を送った筈だが?まさか、ここまで歩いてきた訳ではないだろうな?馬車は?馬車は何処だ?ほら、さっさと帰れ。いいか、真っ直ぐに帰るんだ。決して図書館に寄るんじゃないぞ」
と全く私の話など聞かずに一方的に喋り続けるフェリックス様。
「今日はもう少し仕事が残っているが……」
とフェリックス様が言いかけた時、他の門番が、
「おい、フェリックス。お前の所の護衛が……」
と話しかけて来た。その瞬間、
「フェリックス様!!!大変です!!姫が……!!」
とハウエル家の護衛が慌てた様子で駆けて来た。
「あ!ば、ばか!!」
フェリックス様はその護衛の姿を認めると、これまた慌てた様子でそう叫ぶ。
護衛は『ばか』と言われた言葉にハッ!として、フェリックス様の目の前の私に視線を送ると、自分の口を勢いよく手で塞いだ。何か不味いことでも口走ったのかもしれない。
私の顔を見てのその態度……。きっと、護衛の口走った『姫』というのはステファニー様の事だろう。何故ハウエル家の護衛がステファニー様の事で慌てているのか……私にはさっぱり見当もつかないが、ステファニー様の身に何か恐ろしい事が起きているのかもしれない。フェリックス様に言われた通り今日は大人しく帰った方が良さそうだ。
しかし結局、私は何も話が出来ていない。と言うか口も挟ませて貰えなかった。あぁ……何の為にここまで来たのだろう。
このままでは、また図書館に行けない日々が続いてしまう。きっとこの様子だと今日もまたお茶会はキャンセルされる事だろう。
私は意を決して、
「フェリックス様、お忙しいようなので私は帰ります。もちろん、今日のお茶会は中止で構いませんので。でも!……あの……せめて、お茶会の日にちをきちんと決めませんか?気まぐれに、思いつきで、突発的に行うのではなく、ちゃんと。……そうですね、前の様に二ヶ月……いや、三ヶ月に一度、フェリックス様の休日の日にしましょう。では、失礼いたします」
早口で言いたい事だけ言って、頭を下げた。
少しだけ恨み節が混じったのは、せめてもの抵抗だと思ってもらいたい。
私は否定されるのも嫌なので、さっさと踵を返す。
「おい!!」
とフェリックス様の声が追いかけて来る様に聞こえるのを、丸っと無視して私は早足で馬車止まりまで急いだ。
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