上 下
19 / 44

第19話

しおりを挟む
「気にせず楽しもう」

私の気分が顔に出ていたのだろうか?デービス様はそう言うと、

「さぁ、もうすぐ入場だよ。はい」
と私に腕を差し出す。私は笑顔に戻ってその腕をとった。

会場は幾つものシャンデリアに彩られ、さすが王宮といった感じで全ての調度品が豪華だった。

父と数回夜会には参加したが、今日の方が全てがキラキラして見える。
気分が違えば見える景色も違ってみえる……という事の様だ。

今回は若者中心の為、陛下と妃陛下は簡単な挨拶のあと、席を立った。
本当なら、王太子殿下と婚約者であるステファニー様が中心となってこの夜会を盛り上げるのだろうが、殿下は不在。そして、その婚約者は遅れてくるらしい。しかも別の男にエスコートされて。

陛下が立ち上がったのを合図に演奏が始まり、アイーダ様とジェフリー様がフロアの真ん中に出て踊り始めた。

「わぁ……素敵ですね」
「さすが公爵家のお二人だ。皆の視線を独り占めだね」

二人は息の合ったダンスで、皆を魅了した。
そして、それに倣う様に皆も踊り始める。

「メグ、ダンスは得意?」

「得意……ではありませんが、人並み程度には」

私がそう答えると、デービス様は手を差し出した。私はその手に自分の手を重ねると、二人してフロアへと向かった。

皆が次々に踊り、フロアにはドレスの花が咲く。
皆の笑顔に私も同じ様に笑顔になった。久しぶりのダンスに少し息が上がるのは、運動不足だからかそれとも高揚した気分のせいか。
盛り上がりも最高潮になったその時、会場の扉が大きく開かれた。

「皆様、お待たせいたしました。あら……もう始まってましたの?」
とステファニー様が現れた。エスコートするのはもちろんフェリックス様。

皆はダンスの足を止め、二人に注目した。一瞬シン……となった後にステファニー様が通れる様、左右に分かれて道を開けた。

ステファニー様はそこを当然の様に堂々と歩いて中央へと向かう。フェリックス様は真っ直ぐ前を向いたまま、ステファニー様をエスコートする……というより、連れられる様にして一緒に前へと進み出た。

ステファニー様が目指すのは中央に居るアイーダ様達の場所だ。

「ご機嫌よう、アイーダ様。私が遅くなってしまったせいで、お二人にお任せしてしまってごめんなさいね」

「ステファニー様、別に貴女の代わりに最初に踊った訳ではないわ。貴女が王族なのであれば話は別だけど」

傍から見ればアイーダ様の雰囲気も相まって、彼女が喧嘩を売っている様に見えるかもしれないが、先日ステファニー様の裏の顔を少しだけ覗いてしまった私には、最初のステファニー様の言葉の方が引っかかる。
二人はお互い笑顔なのだが、火花が散っている様に見えるのは私の気の所為だろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

【完結】無能に何か用ですか?

凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」 とある日のパーティーにて…… セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。 隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。 だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。 ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ…… 主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結】可愛くない、私ですので。

たまこ
恋愛
 華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。

木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。 しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。 夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。 危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。 「……いつも会いに来られなくてすまないな」 そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。 彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。 「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」 そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。 すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。 その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

処理中です...