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第16話
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「メグ!ドレスが届いたわ!それにお誘いのお手紙も」
何故だか、母がウキウキしていた。何故かと尋ねると『だって……せっかく女の子を産んだのにドレスをプレゼントされたのが初めてなんだもの。母親だって、何だか嬉しくなっちゃったのよ』と笑顔で答えた。
そうか……よくよく考えなくてもフェリックス様にドレスをプレゼントされた事など無かった。
いや、ドレスだけではなく、プレゼントされた事自体殆ど無い。
フェリックス様から贈られたもの……遠い昔、婚約して間もない頃に贈られた一冊の本。
今思えばあれが私が本の虫になるきっかけだった。
ある魔法使いのお話。落ちこぼれの魔法使いが名を上げる為に悪いドラゴンを倒しに行くのだが、その道中で色んなハプニングが起こる。それを乗り越えながら、主人公の魔法使いは少しずつ成長していく……そんな物語。
とても面白くて、私は夢中になって読んだ。
きっとフェリックス様の年齢に合わせた本だったのだろう。あの時の私には少し難しい言葉が多かったけど、それでもワクワクしっぱなしだった事を覚えてる。
「でも、それをフェリックス様に伝えてお礼を言ったのに……何故か顔を赤くして怒ったのよね。あれ?あの時私、何で怒られたのかしら?怒られる様な事をした覚えはないのだけど。あの時、フェリックス様って……何て言っていたかしら?」
私が独り言を言っていると、
「何をブツブツ言ってるのよ。ほら、早く開けてみましょうよ!」
と私より目を輝かせた母に促されて、私はドレスの箱を開けた。
「うわぁ……素敵」「まぁまぁ!!なんて綺麗なレースでしょう」
私達二人はそのドレスに一瞬で目を奪われた。
ゴテゴテとした飾りはないが、広がりを少し抑えたスカートには綺麗なチュールレースが施され、淡いグラデーションを描く。ホルターネックになった背中は大きく開いていた。だけど、その背中を隠すように大きなリボンが付いているが、それがまたアクセントになっていて、可愛らしい。
「こんなの……あまり見たことはないわ」
「本当ね。でも凄い素敵。きっとメグに似合うと思うわよ」
と母はうっとりとそのドレスを眺めていた。
「デービス様、ドレスをありがとうございました」
私は図書館でデービス様を見かけると、急ぎ足で近付いて小さく頭を下げた。
本棚で本を物色していた彼は、私の姿を認めるとバラバラと捲っていた本を閉じ、私に微笑んだ。
「届いた?良かった。間に合ったね」
「はい。こんなに早く出来るなんて驚きました」
「あのローレンは腕が良いんだ。有名な店ってわけじゃないし、あまり貴族相手の商売はしていないが、僕は信頼している」
「あのドレスを見た人は皆欲しがると思います。
たちまち有名になってしまうかもしれませんよ」
「そうなったら、ローレンが困ってしまうかもしれないな。彼女はあまり商売っ気が無くてね。僕はもっと話題になってもおかしくないって思っているんだが、彼女は彼女のペースで仕事がしたいらしい」
「なら……お店のお名前は内緒にしておいた方が良いかもしれませんね」
「あぁ、そうして貰えるとありがたいよ」
私とデービス様は微笑み合った。
何故だか、母がウキウキしていた。何故かと尋ねると『だって……せっかく女の子を産んだのにドレスをプレゼントされたのが初めてなんだもの。母親だって、何だか嬉しくなっちゃったのよ』と笑顔で答えた。
そうか……よくよく考えなくてもフェリックス様にドレスをプレゼントされた事など無かった。
いや、ドレスだけではなく、プレゼントされた事自体殆ど無い。
フェリックス様から贈られたもの……遠い昔、婚約して間もない頃に贈られた一冊の本。
今思えばあれが私が本の虫になるきっかけだった。
ある魔法使いのお話。落ちこぼれの魔法使いが名を上げる為に悪いドラゴンを倒しに行くのだが、その道中で色んなハプニングが起こる。それを乗り越えながら、主人公の魔法使いは少しずつ成長していく……そんな物語。
とても面白くて、私は夢中になって読んだ。
きっとフェリックス様の年齢に合わせた本だったのだろう。あの時の私には少し難しい言葉が多かったけど、それでもワクワクしっぱなしだった事を覚えてる。
「でも、それをフェリックス様に伝えてお礼を言ったのに……何故か顔を赤くして怒ったのよね。あれ?あの時私、何で怒られたのかしら?怒られる様な事をした覚えはないのだけど。あの時、フェリックス様って……何て言っていたかしら?」
私が独り言を言っていると、
「何をブツブツ言ってるのよ。ほら、早く開けてみましょうよ!」
と私より目を輝かせた母に促されて、私はドレスの箱を開けた。
「うわぁ……素敵」「まぁまぁ!!なんて綺麗なレースでしょう」
私達二人はそのドレスに一瞬で目を奪われた。
ゴテゴテとした飾りはないが、広がりを少し抑えたスカートには綺麗なチュールレースが施され、淡いグラデーションを描く。ホルターネックになった背中は大きく開いていた。だけど、その背中を隠すように大きなリボンが付いているが、それがまたアクセントになっていて、可愛らしい。
「こんなの……あまり見たことはないわ」
「本当ね。でも凄い素敵。きっとメグに似合うと思うわよ」
と母はうっとりとそのドレスを眺めていた。
「デービス様、ドレスをありがとうございました」
私は図書館でデービス様を見かけると、急ぎ足で近付いて小さく頭を下げた。
本棚で本を物色していた彼は、私の姿を認めるとバラバラと捲っていた本を閉じ、私に微笑んだ。
「届いた?良かった。間に合ったね」
「はい。こんなに早く出来るなんて驚きました」
「あのローレンは腕が良いんだ。有名な店ってわけじゃないし、あまり貴族相手の商売はしていないが、僕は信頼している」
「あのドレスを見た人は皆欲しがると思います。
たちまち有名になってしまうかもしれませんよ」
「そうなったら、ローレンが困ってしまうかもしれないな。彼女はあまり商売っ気が無くてね。僕はもっと話題になってもおかしくないって思っているんだが、彼女は彼女のペースで仕事がしたいらしい」
「なら……お店のお名前は内緒にしておいた方が良いかもしれませんね」
「あぁ、そうして貰えるとありがたいよ」
私とデービス様は微笑み合った。
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