13 / 129
第13話
しおりを挟む
「いえ。日頃の運動不足のせいです。意外とここまで遠くて。自分の考えが甘かったのです」
「は?歩いて来たのか?」
「は、はい。いつも学園からは歩いて帰っているので……」
図書館に寄ると時間を忘れてしまう私だが、流石に馬車で御者を待たせていると思うと、ソワソワして本に没頭出来ない。
「馬車ぐらい使えば良いだろう?お前は一応伯爵令嬢なんだ。そんな所でケチるなんて……」
『一応』ね。普通の伯爵家だと思うのだが、フェリックス様はどうも身分で人を格付けしたり判断するきらいがある気がする。最初に会った時も侯爵令息だ、伯爵令嬢だと言われたものね。
「はい。申し訳ありません。以後気を付けます」
「何度も謝るな。謝罪が軽く感じる。さっさと座れ」
私は不機嫌そうなフェリックス様に促されて向かいの席へと腰掛けた。
歩いて来て喉も渇いたので、冷たいお茶を頼むために給仕に声を掛けようと探してキョロキョロしていると、
「おい。俺は時間がない。この後ステファニーを宝石店に連れていかねばならんのだ」
と言われて、私は思わず
『ならば今日お茶会をしなければ良かったのでは?』
と口から出そうになるのを我慢した。
「左様でしたか……」
私は給仕を呼び止めるのを諦めた。向こうが気がついてくれたらその時はお茶を注文しよう……そうしよう。
フェリックス様は腕を組んだままイライラしている様子だ。
この後のステファニー様との約束が気がかりなのだろう。
このまま無言でいても間が持たない。私は意を決して口を開いた。
「あの……今日はどういった御用で?」
私はいつもより早く開かれたお茶会の意図を確認した。
「用とは?婚約者同士がお茶会を開くのは、常だ」
「は?……確かに普通の婚約者同士なら、そうでしょうけど……」
私が口を開く度に、フェリックス様に睨まれて私の言葉尻はどんどんと小さくなっていった。
「何だ?俺達が普通ではないような言い方だな」
普通じゃないと思っているのは私だけなのだろうか?フェリックス様の普通が分からない。
「いえ……決してその様な事は……」
「モゴモゴと喋るな。下を向いて話すから声が聞こえないんだ」
いちいち怒られていては、顔も上げられない。
私は飲み物も注文せず手持ち無沙汰なまま、この地獄の様な時間をどうにかやり過ごせないかと、そればかり考えていた。
「…………で過ごせば良い」
そればかり考えていたせいで、フェリックス様の話を聞いていなかった。はて、今なんて言ったのだろう。でも、聞き返すなんて怖くて出来ない。
「は、はい」
と、一応返事だけはしておく。何の事だかさっぱり分からないけど。
「俺からの話は以上だ。時間がないので失礼する」
フェリックス様はカップに残った珈琲をグイッと飲み干すと、席を立った。私も慌てて席を立つ。
「お前、何も頼んでいないじゃないか?せっかくカフェに招待したというのに。俺は時間がないからもう行くが、お前は何か飲んでから帰れ。カフェが好きなんだろう?カフェが。支払いは済ませておく」
物凄く早口でフェリックス様をそう言い残すと早足で去っていった。
出口付近で私の方を見て店員に何かを言っていたので、支払いは本当に済ませてくれている様だ。
……しかし。何とも勝手な人だ。結局、何の用だったのだろうか?それすら全く分からなかった。
私は改めて椅子に腰掛けて、ゆったりとした気分で給仕に声を掛けた。フェリックス様が居ないと空気が美味しい気がする。
「は?歩いて来たのか?」
「は、はい。いつも学園からは歩いて帰っているので……」
図書館に寄ると時間を忘れてしまう私だが、流石に馬車で御者を待たせていると思うと、ソワソワして本に没頭出来ない。
「馬車ぐらい使えば良いだろう?お前は一応伯爵令嬢なんだ。そんな所でケチるなんて……」
『一応』ね。普通の伯爵家だと思うのだが、フェリックス様はどうも身分で人を格付けしたり判断するきらいがある気がする。最初に会った時も侯爵令息だ、伯爵令嬢だと言われたものね。
「はい。申し訳ありません。以後気を付けます」
「何度も謝るな。謝罪が軽く感じる。さっさと座れ」
私は不機嫌そうなフェリックス様に促されて向かいの席へと腰掛けた。
歩いて来て喉も渇いたので、冷たいお茶を頼むために給仕に声を掛けようと探してキョロキョロしていると、
「おい。俺は時間がない。この後ステファニーを宝石店に連れていかねばならんのだ」
と言われて、私は思わず
『ならば今日お茶会をしなければ良かったのでは?』
と口から出そうになるのを我慢した。
「左様でしたか……」
私は給仕を呼び止めるのを諦めた。向こうが気がついてくれたらその時はお茶を注文しよう……そうしよう。
フェリックス様は腕を組んだままイライラしている様子だ。
この後のステファニー様との約束が気がかりなのだろう。
このまま無言でいても間が持たない。私は意を決して口を開いた。
「あの……今日はどういった御用で?」
私はいつもより早く開かれたお茶会の意図を確認した。
「用とは?婚約者同士がお茶会を開くのは、常だ」
「は?……確かに普通の婚約者同士なら、そうでしょうけど……」
私が口を開く度に、フェリックス様に睨まれて私の言葉尻はどんどんと小さくなっていった。
「何だ?俺達が普通ではないような言い方だな」
普通じゃないと思っているのは私だけなのだろうか?フェリックス様の普通が分からない。
「いえ……決してその様な事は……」
「モゴモゴと喋るな。下を向いて話すから声が聞こえないんだ」
いちいち怒られていては、顔も上げられない。
私は飲み物も注文せず手持ち無沙汰なまま、この地獄の様な時間をどうにかやり過ごせないかと、そればかり考えていた。
「…………で過ごせば良い」
そればかり考えていたせいで、フェリックス様の話を聞いていなかった。はて、今なんて言ったのだろう。でも、聞き返すなんて怖くて出来ない。
「は、はい」
と、一応返事だけはしておく。何の事だかさっぱり分からないけど。
「俺からの話は以上だ。時間がないので失礼する」
フェリックス様はカップに残った珈琲をグイッと飲み干すと、席を立った。私も慌てて席を立つ。
「お前、何も頼んでいないじゃないか?せっかくカフェに招待したというのに。俺は時間がないからもう行くが、お前は何か飲んでから帰れ。カフェが好きなんだろう?カフェが。支払いは済ませておく」
物凄く早口でフェリックス様をそう言い残すと早足で去っていった。
出口付近で私の方を見て店員に何かを言っていたので、支払いは本当に済ませてくれている様だ。
……しかし。何とも勝手な人だ。結局、何の用だったのだろうか?それすら全く分からなかった。
私は改めて椅子に腰掛けて、ゆったりとした気分で給仕に声を掛けた。フェリックス様が居ないと空気が美味しい気がする。
3,311
お気に入りに追加
6,141
あなたにおすすめの小説
出ていけ、と言ったのは貴方の方です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
あるところに、小さな領地を治める男爵家がいた。彼は良き領主として領民たちから慕われていた。しかし、唯一の跡継ぎ息子はどうしようもない放蕩家であり彼の悩みの種だった。そこで彼は息子を更生させるべく、1人の女性を送りつけるのだったが――
※コメディ要素あり
短編です。あっさり目に終わります
他サイトでも投稿中

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう!
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「ランドルフ様、私との婚約を解消しませんかっ!?」
子爵令嬢のミリィは、一度も対面することなく初恋の武人ランドルフの婚約者になった。けれどある日ミリィのもとにランドルフの恋人だという踊り子が押しかけ、婚約が不本意なものだったと知る。そこでミリィは決意した。大好きなランドルフのため、なんとかしてランドルフが真に愛する踊り子との仲を取り持ち、自分は身を引こうと――。
けれどなぜか戦地にいるランドルフからは、婚約に前向きとしか思えない手紙が届きはじめる。一体ミリィはつかの間の婚約者なのか。それとも――?
戸惑いながらもぎこちなく心を通わせはじめたふたりだが、幸せを邪魔するかのように次々と問題が起こりはじめる。
勘違いからすれ違う離れ離れのふたりが、少しずつ距離を縮めながらゆっくりじりじりと愛を育て成長していく物語。
◇小説家になろう、他サイトでも(掲載予定)です。
◇すでに書き上げ済みなので、完結保証です。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる