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第11話

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「何だか解せないのよね。殿下の婚約者っていう立場を最大限利用しているくせに、フェリックス様まで手に入れようとしている様で」
私はそんなアイーダ様に、

「もしや……アイーダ様はステファニー様の事を?」

「苦手だわ。私も同じく公爵家の娘だから、顔を合わせる事は良くあったのだけど……。子どもの頃から大人の前では良い顔を見せて、その裏では猫や鳥をいじめていたもの」
その言葉に私は目を丸くした。

「あのステファニー様が?」

「ほら。貴女もそう思うでしょう?大多数の人間がそう思ってるの。ステファニー様は可愛らしくて優しくて、愛くるしい。それが皆の印象だけど私はたまたま目撃したの。
それからというもの、あの子の言う事は何だか嘘くさくて」

「驚きました。そんな事が……」

「貴女は私の言葉を信じるのね」
アイーダ様のその言葉に、

「??もちろんです。アイーダ様がそんな嘘をついて何の得が?」
と私は首を傾げた。

「子どもの頃そう言っても『まさか、あの天使の様なステファニーが?』って皆私の言葉を疑ったわ。それに、私が殿下の婚約者になれなかった腹いせにそんな嘘を言っているって言う人も少なくなくて……。いつしか私はそれを誰にも言わなくなった。
ただ、これだけは言っておくわ。私、殿下の婚約者の座なんて、これっぽっちも欲しくないの。私には立派な婚約者がいるのだから」

アイーダ様の婚約者は、ゴードン公爵のご嫡男だ。アイーダ様より二つ歳下で今年学園に入学してきた。
アイーダ様が歳上な事を、色々と言う人も居たらしいが、二人はとても仲が良かった。

「そう言えば、ジェフリー様は?いつもは一緒にお帰りになるのに」
私は今更その事に気付き、アイーダ様に尋ねた。

「ジェフリー様は先週から王都を離れているの。領地へ視察に。明日には帰って来るわ」

そう嬉しそうに言うアイーダ様はとても可愛らしかった。しかし、その顔は直ぐに曇る。

「フェリックス様がどんなおつもりか知らないけれど……もし婚約が解消されたりしたらどうするつもり?」

「そうですね……私も貴族の娘なので家の為に嫁ぐつもりでおりますが……。もっと女性が自立出来る手段があれば良いのに……とそう思います。そうすれば、私一人でも生きていける。フェリックス様を自由にしてあげる事も可能です」

「貴女……人が良すぎない?」

「ふふ。私は本さえ読むことが出来れば、それで良いんです。だって『本の虫令嬢』ですから」
と私が笑えば、

「貴女……知ってたの?そう呼ばれている事」

「もちろん。本当の事ですから。言い得て妙だなと感心しておりました」

「まぁ……貴女が気にしていないなら良いけど。でも……ごめんなさい。私も最初は面白がって、悪い事を言ったわ。貴女がどんな人か……知らなかったから」

「大丈夫です。アイーダ様のお気持ちはわかりましたから」

彼女は本当に根が悪い人ではないのだ。
皆が陰で面白がっているのを、彼女は私に直接聞いてきた。陰口よりもずっと清々しい。

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