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第10話
しおりを挟む「何かしらあれ。ぶつかっておいて謝りもしないで」
アイーダ様はあからさまに不機嫌そうな顔をした。
あれ?もしやアイーダ様ってステファニー様が嫌い?
「私の事なんてお二人共目にも入らないのでしょう。アイーダ様、もう行きましょう。お二人の邪魔は出来ませんし」
「それはそうだけど……良いの?本当に」
「ええ。慣れっこですから」
私は呆れ顔のアイーダ様を促して馬車へと向かう為、二人に背を向けた。
「おい!マーガレット!」
と言うフェリックス様の声が……聞こえた様な気がしたが、
「ねぇ、フェリックス!夏の夜会のことなんだけど……」
と言うステファニー様の声に紛れて、もうそれ以上の言葉は聞こえなかった。
カフェは多くの人で賑わっていた。私は初めての事に、つい周りを物珍しくキョロキョロと見渡してしまう。
その様子にアイーダ様はクスリと笑った。
「あ、すみません。カフェなんて初めてですので」
私は少し恥ずかしくなって、つい謝ってしまった。
「初めて?フェリックス様と来たことは……ない?」
「ええ。フェリックス様はお忙しい方なので」
冷遇されている事は知っているだろうが、それを口にすれば、アイーダ様が困ってしまうだろう。私はそう思って言ったのだが、
「忙しいねぇ……。ステファニー様と来ているのを見たことがあるけど」
とアイーダ様は顔を顰めた。
席に着いて改めて、
「マーガレット様。貴女……本当に良いの?」
とアイーダ様は少し怒った様に私に尋ねた。
「本当に良いの?とは?」
「フェリックス様の事よ。ステファニー様が王太子妃になって……もしフェリックス様を専属護衛として指名したら?騎士の誓いを立ててしまったら?そうなった騎士は……例外なく結婚はしないわ。結婚出来ない訳ではないけど、殆ど家に戻らない夫を待つ妻なんて……辛いだけだもの」
「それがフェリックス様の望みであれば仕方ないですね。元々お二人は幼馴染で想い合っていらっしゃったのに、そこを邪魔しているのは私の方ですから」
私はそっとカップに口をつけた。……美味しい。初めて珈琲なる物を飲んだがお茶とは違う味わいだ。少し苦いがそれもまた良い。
「でも、ステファニー様は殿下の婚約者。そしてフェリックス様の婚約者は貴女よ」
「……お二人共、お可哀想ですよね。望まぬ結婚を強いられて……」
私が眉を下げると、
「ステファニー様は殿下の婚約者って事をひけらかしているわ。望まぬ結婚なんかではないんじゃないかしら?」
「それでも……。心まではどうにも出来ませんから」
そう言った私にアイーダ様は不服そうな顔をした。
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