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第3話

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『夏の夜会』
これは、我が国の独身の若者が中心に招かれる夜会なのだが、基本的に男女二人で参加するのが常識だ。別に一人で参加しても問題はないのだが、そんな強者は今のところ見た事はない。

殆どは婚約者を伴って参加する。普通の夜会では婚約者が居ないご令嬢などは父親にエスコートをされて参加する事もあるのだが、この夏の夜会だけはそうもいかない。『独身の』と条件が付いているからだ。

私、マーガレット・ロビーにも婚約者は居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。

私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。

『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。

それからフェリックス様は有言実行。何をさておいてもステファニー様最優先。私は二の次三の次どころから五……いや八の次ぐらいに回される事になる。
最初のうちは戸惑った。婚約者同士というのは、こんなにも余所余所しいものなのかと。この状態で十年。もうこの状況にも慣れた。これが私にとっては当たり前。

この国では十五で殆どの貴族は学園へと通う様になり、夜会などへも参加可能となるのだが、私はフェリックス様に誘われた事はない。
最初の内は、誘いの手紙が来るのでは?と待っていたが、もう待つことも止めた。夜会も父にエスコートされ、二、三度参加してみたが、それすら億劫になり、最近では参加する事すらない。

当然今回の夜会が特別なのではなく、いつも同じなのだが、学生にとってはこの夏の夜会は特別な意味を持つ。
この夜会で打ち上がる花火を想い人や恋人、婚約者と一緒に見ると生涯幸せになれるのだという言い伝えが、この学園には残されているからだ。


夏の夜会の二ヶ月程前から、婚約者の居ない者達はソワソワしているし、婚約者や恋人の居る者はドレスやアクセサリーの準備に余念がない。
二ヶ月も前から学園全体が浮足立っている感じだ。
だが、そんな中でも私はいつも通り。学園が終わればせっせと図書館に通う。ただそれだけだ。
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