上 下
1 / 44

第1話

しおりを挟む
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。

今日も本の虫令嬢の私はせっせと街の図書館に向かう。

本の匂いと静寂に包まれたこの空間が何より好きだ。

「いらっしゃい、マーガレット。今日はどんな本をご所望かな?」

「歴史物を。出来れば少し血なまぐさい物が……」

「相変わらず普通のご令嬢が好きそうな恋愛物には興味がないんだね。君のリクエストに答えるなら、あのDと書いてある棚の真ん中ら辺を探してご覧」

私は顔見知りになった彼……サーフィス様に礼を言うと、言われた棚へと足を運ぶ。彼はこの図書館の司書だが、私の求めている本をピタリとマッチングしてくれるので、とても助かっている。


「これと……これ。これも面白そう」
そう言いながら本に手を伸ばすが届きそうにない。私が踏み台をキョロキョロと探していると、

「メグ、お目当てはこれかい?」
と私が手を伸ばしていた本を背の高いデービス様がスッと取ってくれた。彼も此処で知り合った内の一人だ。

学園の図書室の本は粗方読んでしまった。もちろん書店で買うこともあるが『これ以上は家の床が抜ける!』と父から止められているので、最近は我慢をしている。

「ありがとうございます」

「今度は戦闘記かい?ならば、これもオススメだよ」
ともう一冊デービス様は棚から抜き出して、私が持っている三冊の上に重ねて置いた。そして、その四冊をひょいっと奪うと、

「窓際の君のお気に入りの席を取ってあるよ。一緒に行こう」
と私の本を持ったまま、スタスタと歩いて行った。内心(一人のほうが集中出来るのだけど)と思いながらも、彼の好意を無にするのも申し訳なく、私は黙って付いて行った。

本を開く。はじめまして。あなたはどんな物語を私に教えてくれるのかしら?
初めて読む本を開くこの瞬間のワクワクが止められない。
本は私を別の世界へと連れて行ってくれる。この瞬間が私は大好きだ。

「メグ、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
物語に没頭して時間を忘れていた私にデービス様が声を掛けた。

窓の外は薄っすらと暗くなり始めている。不味い。また怒られてしまう。

私は急いで本を持ち、席を立った。

「デービス様、いつもありがとうございます」
彼は私が遅くならない程度の時間にいつも声をかけてくれる。デービス様がいない時にはサーフィス様から『そろそろ時間だ』と声をかけられる。自分で時間の管理が出来ればいいのだけど、本を読み始めると、他のものに気を配れない。自分の悪いところだ。

「気をつけて帰るんだよ。ああ、その本は僕が棚に戻しておくよ」

「いつもすみません。では失礼します」
私は頭を下げてカウンターへと向かう。読めなかった分を借りる為だ。

サーフィス様にも『気をつけて』と言われ見送られた。

我が家までは歩いても然程距離はないが、急がなければ日が暮れてしまうだろう。流石に母に心配されてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結】可愛くない、私ですので。

たまこ
恋愛
 華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

完結 この手からこぼれ落ちるもの   

ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。 長かった。。 君は、この家の第一夫人として 最高の女性だよ 全て君に任せるよ 僕は、ベリンダの事で忙しいからね? 全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ 僕が君に触れる事は無いけれど この家の跡継ぎは、心配要らないよ? 君の父上の姪であるベリンダが 産んでくれるから 心配しないでね そう、優しく微笑んだオリバー様 今まで優しかったのは?

処理中です...