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その136
しおりを挟む結局、私の心配は杞憂であった。
いや…ある意味当たっているのだが、兄が舞い上がっている理由は、クリス様が王太子である事ではなかった。
先の戦争で、自分が前線に送られて、半ば死を覚悟した時に、さっそうと援軍が現れて、自分達の部隊を救ってくれた。
その援軍を率いていた人物がクリス様であり、前に兄が『軍神のようであった』と称したのが、クリス様の事だったのだ。
謂わば、クリス様は兄の憧れの人物と化しており、当の本人に会えた事を何よりも…そう私の結婚よりも喜んでいて、クリス様に『これからは俺の義理の兄となるのだ、よろしく頼む』と言われた言葉を今後の生きる糧にするとまで言っていた。
クリス様の姿にポーッとなる様はまるで恋する乙女のようで、若干気持ち悪い。
兄は私を見るなり、『でかした!』と肩を叩いた。
それが王太子妃になる事を指しているのではなく、クリス様と自分を縁続きにしてくれた私への称賛である事は疑いようもない。
兄は母から、
『ドレス姿の妹を見て誉め言葉の1つもかけない貴方に嫁いでくれる人などいるわけがないわ!』
と兄の態度を諌めていた。
ちなみに、兄はまだ婚約者が決まってないのだそうだ。
久しぶりに家族が全員揃ったのだが、私には1つ気になる事があった。
「ねぇ…家族全員でこちらに来てしまって良かったの?領地は?大丈夫なの?」
と心配する私に、
「大丈夫だ!優秀な執事を雇ったからな!ちなみに、ライル殿下の推薦状付だ」
と父はドヤッた。
あれほどまでに貧乏で、執事になんて縁のなかった我が家に優秀な執事。なんだか、不思議で仕方ない。
私がクリス様と結婚をするという事の各方面に与える影響が、思いの外大きくて、自分でも驚いていた。
母が、
「じゃあ、私達は教会に先に行ってるから。シビル…本当に綺麗よ。幸せになってね」
と少し目を潤ませて微笑んだ。
家族が控え室を出た後、
「シビル様、王太子殿下がお迎えに来ております」
とベロニカから声が掛かった。
私は1度大きく深呼吸をする。
私が頷くと控え室の扉が開かれ、そこには白いタキシード姿のクリス様が待っていた。
クリス様は私を見ると、
「あぁ…シビル…なんて綺麗なんだ。
俺は、本当に幸せ者だ。こんなに美しいシビルと結婚出来るなんて」
と言って、私を抱き締めようとして、リリーに止められた。
「殿下!折角のドレスがシワになります!
シビル様を抱き締めるのは後にして下さい!」
と怒るリリーにクリス様は寂しそうな顔で、
「わかった…我慢する」
と呟いた。
「クリス様もとっても素敵です」
と私が言うと、微笑んだクリス様はエスコートの為に私に腕を差し出した。
この腕を取る事に、今はなんの躊躇いもない。
私はクリス様の腕にそっと自分の手を置いた。
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