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その133
しおりを挟む気がつけば、結婚式まで、あと1週間。
早かったような、長かったような。
クリス様とは、随分と距離が縮まった。
イヴァンカ様とフェルト宰相の時と同じように『絆された』って言うのが本音かもしれない。
でも確実に私はクリス様へ好意を持つようになった。
相変わらずクリス様は、俺様気質ではあるが、私に関係する事は必ず私の意見を聞いてくれる。
ドレスは落ち着いた濃い色を選んでくれるようになったし、胸元も必要以上には開いていない。
アクセサリーも華美ではないが、上品に見える物をプレゼントされるようになった。
…もう必要ありません。と言っても買い物を止めてくれないのには困ってしまうが。
毎日夕食を共にすれば、私の好物もクリス様にはわかってしまう。
すると、私の好物のみの食事になってしまって、トムにも申し訳ない。
もっと色々と腕を振るいたいだろうに。
ローザリンデ様には申し訳なかったが、あの一件がなければ、私とクリス様の関係はこんな風に前進しなかっただろう。
ある意味、彼女には感謝したい。
頬は痛かったので、それについてはもう2度とごめんだが。
私が湯浴みを終え、ベランダで星を眺めていると、クリス様がやって来た。
「シビル、今日も星を眺めていたのか?」
「はい。先日、イヴァンカ様に星座に纏わる物語を聞いて、興味が湧いてしまって」
「ほう。どんな話しがあるんだ?」
そう言ってクリス様は私の横に並ぶ。
私はある星座を指差して、
「あの星座、見えますか?
昔、人間が仲睦まじく暮らしていた時代に、 神々も地上で暮らしていたのですが、後に現れた人間たちは争ってばかり。
神々はそれが嫌になって天に帰ってしまったそうなのです。
最後まで残って人間に正義を教えていた女神も結局は人間達に失望し、 天に昇ってあの星座になったそうです」
「……シビル、お前は…戦についてどう思う?」
私はクリス様の質問の意図が分からず、目を瞬いた。
今の星座が争いについての物語だったから…よね?
「戦争は…例え勝ったとしても、誰かが必ず犠牲になります。多かれ少なかれ。
なので、無い方が良いのは間違いないです。
でも、もし誰かが自分の大切なモノを傷つけようとしたりしたら…私も、戦ってでも守ろうとするかもしれません」
「なるほど…。このベルガ王国は色んな国と戦ってきた。そして領土を広げ、国力を上げてきたんだ。
その歴史全てが間違いだったとは思っていない。
今、シビルが言ったように、大切なモノを守る為の戦いだってあった筈だ。
しかし、最近、俺は思うんだ。一度立ち止まるべきなんじゃないかと」
「立ち止まる…ですか…」
「あぁ。ずっとこの国は突っ走ってきたんだ。いつかは疲弊してしまう。
これからは、国内に目を向けるべきなんじゃないかってな」
「ベルガ王国は、豊かな土地に豊かな資源があります。クリス様が今、大切だと思う事に力を尽くしましょう」
「そうだな。今までは国を広げる事を優先してきたが、国民の生活を守る事が1番なんだ。それが出来なければ、良い国王とは言えまい」
「私は、クリス様が良いと思う事をすれば良いと思います。私も微力ながらお手伝いさせていただけたらと、そう思います」
「シビルが隣に居てくれたら、俺は何でも出来る気がするよ」
「…さらっと恥ずかしい事を言わないで下さい」
私は顔が熱くなるのを感じた。きっと赤くなってしまっているだろう。
思わず俯いてしまう。
「そろそろ慣れたらどうだ?」
とクリス様は笑う。
「…これって慣れるものですかね?」
「いつかは慣れるんじゃないのか?」
「うーん。なら、私は慣れなくて良いです。いつでもクリス様の気持ちを新鮮に感じていたいので」
と私が言うと、
「お前もさらっと嬉しい事を言う」
とクリス様は言って、私を抱き締めた。
****************
新連載
「馬鹿な婚約者ほど、可愛いと言うでしょう?え?言わない?」
をスタートさせて頂きました。
もし、お時間がございましたら、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
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