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その99
しおりを挟む翌日から、イヴァンカ様には、この国の理を色々と教えてもらう事になった。
「まさか、1か月後に御披露目なんて…。どうしてそんなに待てないのかしらね…」
と溜め息混じりに呟くイヴァンカ様。
クリス様が遣わせてくれた獣人の侍女を見ても、ミシェル殿下は何も言わず、
「私に負けないよう、せいぜい頑張りなさい」
と私を送り出してくれた。
私は少なくとも、私達の婚約お披露目の為に開かれる夜会に招待されるであろう貴族ぐらいは頭に入れねばと、必死に暗記している最中だ。
ふと私は、
「イヴァンカ様は…フェルト宰相から番だって言われてるんですよね?」
と前に聞いた2人の馴れ初めを思い出しながら質問してみた。
「ん?そうね。主人はそう思ってたと思うわよ。私にはわからない感覚だから、特にそれについて、今は考えた事もないけど」
「『番』って…何なんですかねぇ。それって…なんて言うか、『好き』とかそう言う気持ちなんでしょうか?」
私は昨日からのモヤモヤをなんとなく、口にしてみる。
「うーん。私にもそれはわからないわね。
本能的に相手を求めてしまうものらしいけど、それを『好き』と言う言葉で置き換えられるかと訊かれれば難しい所よね」
…そうですよね…。なんか、クリス様を見てても、私への気持ちがよくわからない。
執着に似たものは感じるが…それが好意かと言われると、そんな風には感じない。
これはもう政略結婚ですよ!と言われた方が、割りきれるというものだ。
難しい顔をしている私にイヴァンカ様は、
「急に状況も周りの環境も変わってしまうんだもの。戸惑うのは当たり前だと思うわ。
でも、そんなに難しく考えなくても良いんじゃない?今は、自分に出来る事を1つずつやっていきましょう。
気持ちがついて来なくても、それを申し訳なく感じる必要はないのよ?」
と言われ、私はストンと府に落ちる。
そうか…私はクリス様に自分も同じ様な気持ちを返さなければならないと、無意識に考えていたのかもしれない。
でも、クリス様の気持ちが私には感覚的にもわからなかったから、どんな気持ちを返せば良いか分からなかった。
そうか。
私には『番』なんてものはわからない。
だから、その部分を理解出来なくても仕方ない。
なら、そこを考え込むのは止めよう、そうしよう。
私は、
「イヴァンカ様、ありがとうございました。少しスッキリしました」
と言って改めて、暗記に取りかかった。
それを見てイヴァンカ様は、
「…また、殿下はやり方を間違えているのね…。全く気持ちが伝わっていないじゃない」
と呟いた。
暗記中の私には、その呟きは耳に届く事はなかった。
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