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その88

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3人が、私を無視して話を続けているが、これを止められるのは、私しかいない。不本意ながら。

「あの…ちょっとよろしいでしょうか?」
と、私は発言の許可を得るように、右手をおずおずと挙げながら、弱々しく声をかけた。

「なんだ?」
クリス様は私を見下ろす。威圧感が半端ない。

「王太子殿下が、その座を辞する事は御座いません」

「は?お前は王太子妃になりたくないのだろう?」

なりたくない。なりたくないに決まってる。
でも、そう言ったら、クリス様は王太子殿下の座をあっさりと手放してしまう。

「なりたくない…というか…私に務まるかどうかわかりませんし、自信もありませんが…少しでも、王太子殿下のお役に立てるよう…これから努力致します……」

人間、言いたくない事を言う時には、自然と声が小さくなるものだなぁ…としみじみ思う。
今の私の声はそこら辺に飛んでいる虫の羽音ぐらいの小ささだったと思うが、獣人であるクリス様の耳はしっかりその声をキャッチしたようだ。

「ん?ということは…シビル、お前は王太子妃になっても良いと言うのだな?」

「……………………はい」
さっきより、更に声が小さくなってしまった。

その答えを聞いたコルッチ様は、

「良かったじゃないですか!これで、王太子の座を放棄する必要はなくなりましたよ!
シビル嬢本当にありがとう。腹をくくってくれて。
ちゃんとシビル嬢が王太子妃として不安のないよう、配慮します!」

コルッチ様はお礼を言いながら、私に近付こうとするも、その行く手をクリス様が阻んだ。

「シビルに近づくな。それに名を呼ぶな。家名のモンターレ伯爵令嬢と呼べ」

「はぁ…あの俺、既婚者ですよ?」
と呆れた声で、コルッチ様がクリス様に反論するも、

「それでも男だ。そうだ!お前、嫁を貸せ!」

「はぁ?何でうちの嫁を殿下に貸さなきゃならんのですか!嫌ですよ!」

そりゃそうだろう。突然、嫁を貸せって…どういう事だと思うに決まってる。

「違う!俺にじゃない。シビルの護衛にする。ベロニカは元々騎士じゃないか、復帰させろ。ならシビルの側に男を置かなくても済む」

クリス様は良い事思い付いた!って顔でコルッチ様に言ってるけど、コルッチ様は苦虫を潰したような顔だ。

「もう引退して結構経ちますよ?他にも女性騎士はいるでしょうよ。そっちを使って下さいよ」

「ベロニカは元々俺の部下を努めていたぐらいだからな。腕を認めている。あいつが適任者だ。
もちろんベロニカだけじゃないから、安心しろ。
近衛の中から女性騎士を全員シビルに付けるように手配するが、ベロニカには1番近くで守っていて貰いたい。1度嫁に相談しろ。嫌ならまた考える」

…私を放ったまま。何故か私の護衛の話が進んでいく。
私、まだミシェル殿下の侍女なんですよ…。
ランバンに行くまでは侍女させてくれるって約束しましたよね?
えっと、あれって無効になりましたっけ?

一介の侍女がゾロゾロ護衛付けてたらおかしいでしょう?ってか、近衛って王族を守る為にあるんですよね?私はまだ王族でもないし、やっと覚悟が決まっただけの、ただの貧乏貴族令嬢なんですけど?

私は話のスピードについていけなくて困惑した。
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