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その83

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「俺は…好きだと伝えた。シビルは…結婚を嫌がったから、この結婚は拒否出来ないと言った。
とにかく、結婚してしまえば、後は…どうにかなると思って…」

戸棚の中にいるからか、段々と小さくなっていくクリス様の言葉がはっきりとは聞こえない。

「『どうにかなる』って…無理矢理結婚させられても、それこそ嫌われてしまうだけよ?
どうしてもっと自分の気持ちを真摯に伝えなかったの?」

「………焦っていたんだ。他にもシビルを狙ってる奴がいるし、彼女は人間だ。
この国では、好意的にみる者は少ない。
シビルを守る為にも、俺の婚約者として早く披露した方が、彼女を傷つける者を排除出来ると思った」

「貴方だって、元々人間が嫌いだったじゃない。
私が貴方の家庭教師として紹介された時の貴方の嫌そうな顔、忘れた事はないわよ?」

「そ、それは…今は悪いと思ってるし、人間にも嫌な奴ばかりでないとわかってる」

「まぁ…昔話をしていても仕方ないわね。
それに殿下の気持ちもわかったわ。
でも、シビルの気持ちは?この国に来たのは、ミシェル殿下の為よ?
そのミシェル殿下とは引き離されて、この国で王太子妃になれと言われた彼女の気持ちは?
焦っていたのはわかるけれど、物事には順序があるのよ。
だから、こうして逃げられたのよ?わかってる?」

「に、逃げられた……彼女は、そんなに俺の事が嫌だったのか?」

「そうね。殿下を嫌いだったかどうかは、シビルにしかわからないけど、結婚が嫌なのは確かでしょうね。
で、どうするの?彼女を見つけたとして、彼女を解放してアルティアに賠償金を請求する?
それをすれば、彼女は責任を感じて、死んでしまうかもしれないわね。
少なくとも彼女の家族にも迷惑がかかるでしょうし。それを苦にする事は間違いないわ。
それとも、無理矢理自分のモノにする?そうすれば、彼女の気持ちは一生手に入らないでしょうけど。
それとも、このまま見逃してあげる?」

イヴァンカ様はクリス様の答えを待っているようだ。

「シビルを失いたくない」
絞り出す様にクリス様は答えた。

「では、無理矢理自分のモノにしたら?
貴方はベルガ王国の王太子。次期国王陛下よ。
誰も貴方に逆らわないわ。命令をすれば、貴方の望み通りよ。
シビルには一生嫌われたままでしょうけど、貴族は政略結婚が殆んどだし、愛のない結婚の方も多いぐらいでしょうから、それでも良いのではない?
好きな人から一生嫌われながら、彼女を自分に縛り付ければ?」

…イヴァンカ様の言葉は辛辣だった。

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