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その71
しおりを挟む「頭を上げて良い」
とアーベル殿下に言われたので、私は頭を上げる。
次の言葉を待っているが、アーベル殿下は何も言わない。
………用が無いなら呼び止めないで欲しい。出来ればこの場から早く立ち去りたい。
私が内心、イライラしていると、アーベル殿下が
「…私にも足りない所があったと思うか?」
と訊いてきた。
…どう言う意味なのか分からない私は、何も言えない。私が黙っていると、
「怒っているのか?」
と私の顔色を伺う。
何に対して怒っているのか訊いているのだろう?
今、呼び止められて、訳のわからない事を訊ねられているこの状況についてなら、多少イライラしているが、多分その事を言っているわけではないだろう。
でも、私からは特に何も言うつもりはない。
「滅相も御座いません」
私はとりあえず否定だけしておく事にした。
アーベル殿下は私のその答えに構わず、
「私は、今回の結婚に最初から乗り気ではなかった。国境沿いで待たされた時、既に王女に期待する事を止めていた。
だからと言って、私の態度も褒められたものではなかったと…今は思っている」
…思っているから何なの?
婚約破棄を無かった事にするって訳ではないのよね?
で、この人は私に何て言って欲しいの?
私は何も答える事は出来ない。
アーベル殿下も私から答えが欲しい訳ではないのだろう。
ただ、誰かに聞いて欲しかった?それでも私に言うのはお門違いだ。
私はただ、黙ってアーベル殿下を見た。
言うべき答えを私は持ち合わせてはいない。
アーベル殿下は、
「…呼び止めて悪かった。持ち場に戻れ」
と言って、私に背を向けて歩いて行った。
…今さらそんな事を言われた所で、この状況が変わるわけじゃない。
私は、全く気分転換にならなかった、庭の散策を終えて、殿下の部屋へ戻った。
2度とこの庭園を歩く事はないだろう。この素晴らしく咲き誇った花達を愛でる気持ちにはもうなれそうになかった。
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