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その69
しおりを挟むミシェル殿下は、私からフェルト女史の話を聞くと、
「…私はアルティアでは邪魔な存在になるの?」
と訊ねてきた。
それは今までの我が儘放題の彼女の姿ではなく、本気で自分の行く末を心配しているようであった。
私は、
「アルティアとランバンの間で現在、どのような話し合いが持たれているのか、私には正直言ってわかりません。
しかし、今のままでは、殿下は『ベルガ王国の不興を買って婚約破棄された王女』のままです。
ベルガ王国が、アルティアに…その…賠償金をどの程度請求しているのかわかりませんが…その責任が殿下にあるとして、陛下や王太子殿下が…ミシェル殿下がアルティアに戻ってもあまり良い顔をされない事は想像出来ます。
しかし、ランバンとの縁を持つ事で、アルティアに利益があれば、少なくとも殿下がランバンに嫁ぐ価値はあると、そう思ってもらえるのではないかと思います」
今は全て想像でしかないが、せめてミシェル殿下がランバンに嫁ぐ事が、アルティアに有益であると証明出来れば、ただこのままアルティアに戻って、居心地の悪い思いをするよりマシだろう。私がそう言うと、
「…そう…」
そう言って殿下は黙ってしまった。
私は我が儘なミシェル殿下が苦手だが、こんなしおらしい殿下はもっと苦手だ。調子が狂う。
私は、昼食の時間になり、厨房へ向かう。
ユリアもレジーも、もう此処には居ない。2人共、責任を感じて辞めてしまった。
2人の責任ではないのだが…引き留めた所で、もうこの国に滞在出来る期間は限られている、
殿下も2人を引き留める事はなかった。
私が厨房から昼食を乗せたワゴンを運んでいると、廊下の向こうからクリス様がやって来た。
あの婚約破棄宣言の日から初めてクリス様を見かけたが…正直言って、嫌悪感しかない。
ミシェル殿下の事を好きかと訊かれれば答えは否だ。
しかし、それでも私の主だ。私は主を守れなかった。正直言って専属侍女失格だ。
クリス様を見るとそれを嫌でも思い知らされる。今は1番会いたくない人だった。
クリス様は…目下私の『敵』である。そう私は認識していた。
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