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その62
しおりを挟むそう言えば最近、クリス様を見かけない。
私としては、仕事が捗るので、会わなくて万々歳なのだが、アーベル殿下がミシェル殿下との今後をどう考えているのか、訊ねる事が出来るとするならば、クリス様しか居ないと思っていた。
もし会えたら、それとなく訊いてみたいと思っていたのだが…。
会えないのなら、仕方ない。
今日の殿下は、語学の勉強中だ。
ゲルニカはほんの少し前まで他国の領地であった為、そこの領地にある建物の看板なんかは、ベルガ王国のそれとは違っている。
少しずつベルガ王国の領地として統治していくのだろうが、その道のりは長い。
せめて、その国の言葉を少しは理解出来ていた方が良いとのフェルト女史の心遣いだったのだが…。
「どうして、隣の国の言葉を覚えなきゃならないの?」
と殿下は不服そうだ。
殿下は、婚姻後、アーベル殿下がゲルニカへ行く事をまだ知らない。
私も言うべきかどうか、悩んでいる。
今の所、アーベル殿下との仲が好転しているとは言いがたい。
もうすぐお試し期間が終わり、本来なら婚約式が執り行われる筈なのだが、このまま殿下とアーベル殿下の関係が改善しなければ、その話はなくなるだろう。
しかし、もしミシェル殿下とアーベル殿下との婚約が白紙になるような事になれば、アルティアとベルガ王国との関係悪化は免れない。
アルティアにとってベルガ王国の軍事力は何を置いてでも欲しいものだろう。
前にクリス様も言っていたが、この婚姻はアルティア主導で進められたモノで、ベルガ王国にとっては然程重要視されていなかった。
この婚約が白紙になって困るのは、アルティアの方だろう。
代わりに何かを差し出すとしたら…関税の引き下げだけでは済まないかもしれない。
アルティアに戻される事になったら、ミシェル殿下の立場はどうなるのだろう。
更に他国との婚姻を用意されるのか、それともアルティアの高位貴族へ嫁がされるのか。
しかし…第二王女であるパトリシア殿下が公爵家に嫁入りしている。アルティア王国の貴族にこれ以上嫁がせても、王家としては、あまり利益はないのかもしれない。
私は部屋の隅に控えていたが、思考の海を漂っていた。
その私の意識が急に浮上する。殿下の声で。
「ゲルニカ?!ゲルニカって何よ!私はそんな事は聞いていないわ!そんな所には絶対行かないから!」
…何が起こったのか、一瞬状況を掴めなくて、私は呆けてしまったが…ユリアが横で青い顔をしている…もしや…バレた?
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