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その56
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「しつこかった…とは?」
つい、私は訊いてしまった。
「断った翌日から、毎日、花を持って商会に現れたのよ」
「ま、毎日ですか?」
え?宰相って暇なの?
「そう。最初はね、商会の皆も、冷やかしてきたりしたわよ?でも、流石に1ヶ月毎日だとね、皆、もう笑えなくなっちゃって」
「1ヶ月?!凄いですね」
やっぱり、暇なの?
「2週間もするとね、家も、商会も花だらけになっちゃったの。それで、『困ります』って言ったんだけど…花束から花一輪に変わっただけ。それでも毎日花をくれたわ」
「でも、なんでそんなにお花に拘ったんでしょうか?」
他にも女性が喜びそうな贈り物は色々ありそうだけど…。
「それがね、後で私も気になって訊いたんだけど、私が最初に会った日に『花が好き』って言ったって言うの。私はそれを全然覚えてなくて…」
「フェルト女史がお花を好きなのは、事実なんですか?」
「確かに好きだけど…特別好きな訳じゃなかったのよ?無意識にそんな事を言っちゃったのかしらね?でも、その一言で、毎日花を贈るのも……ねぇ?」
なかなかだな。
「で、1ヶ月毎日お花を贈られて…それで?」
「毎日、毎日、花と一緒にメッセージカードが入ってて。それに、愛の言葉が書いてあったわ。それと食事のお誘いね。
宰相が毎日、毎日、職場を離れてて、この国が心配になっちゃったわよ」
そう言ってフェルト女史は笑った。
確かに、私もそう思いました。
「でも、1ヶ月ずっと断っていたんですか?」
「そうなの。いつもお断りしてたんだけど、1ヶ月経った時に、商会の会長から『頼むから食事ぐらい付き合ってあげてくれ。毎日、毎日商会に来られて、どうにかなりそうだ!』って言われちゃったの。
それで、仕方なくお食事をご一緒したのよ」
「で、それからどうなったんですか?」
この状態から、結婚まで持ち込めるなんて、宰相凄いな。
「食事が終わって、家に送ってもらう馬車の中で、プロポーズされたわ。でも、私はその時25歳で、適齢期も過ぎてたし、結婚する気もなかったし。もちろん断ったんだけど…」
「だけど…?」
まさか?
「また翌日から、今度は毎日プロポーズされたの」
「はぁ……凄いですね…」
開いた口が塞がらないってこう言う事を言うんだろうな。
「でしょう?私、なんだか怖くなっちゃって」
わかります。
「なのに何故ご結婚を?」
「何故かしらね?『絆された』と言うのが本当の所だけど…彼なら私を裏切らないって思えた事も大きかったと思うわ」
「確かに。そこまで自分の事を想ってくれる人になかなか出会えないですよね」
「ねぇ。シビルさんは、『番』って知ってる?」
「えっと…獣人には本能的に求める運命の相手みたいなのが居るんですよね?でも、今はそういう本能が殆んど残っていないと聞いていたのですが…」
アルティアでもそう聞いていた。
「私もそう思ってたし、そんな相手が居るっていう獣人も周りに居なかったの。でも、主人は私の事を『番』だと思ってるのよ」
「『番』って同種族ではないんですか?」
「昔の文献では、同種族が多かったけれど、その限りではないと書かれてたわ」
「調べたんですね?」
「えぇ。主人がそう言うものだから、つい気になって。でも、良くわからなかったわ。だから、もう主人がそう思うなら、それで良いかって」
「でも…なんだか、素敵ですよね。私は、恋愛した事もないし、運命の相手?とやらにも出会った事はないですけど、一生に一度で良いから、そんなに誰かに想って貰いたいです。正直憧れちゃいます」
私は素直に羨ましいと思えた。
「…ところで…どうして私の話を?他のお仕事をしてみたいとか?」
と、フェルト女史は私の最初の目的を思い出したようだ。
「いえ。私はこの仕事を辞める気はないんですが…なんだか、その…クビになりそうなんです」
と私が言うと、フェルト女史はびっくりしたように目を丸くした。
つい、私は訊いてしまった。
「断った翌日から、毎日、花を持って商会に現れたのよ」
「ま、毎日ですか?」
え?宰相って暇なの?
「そう。最初はね、商会の皆も、冷やかしてきたりしたわよ?でも、流石に1ヶ月毎日だとね、皆、もう笑えなくなっちゃって」
「1ヶ月?!凄いですね」
やっぱり、暇なの?
「2週間もするとね、家も、商会も花だらけになっちゃったの。それで、『困ります』って言ったんだけど…花束から花一輪に変わっただけ。それでも毎日花をくれたわ」
「でも、なんでそんなにお花に拘ったんでしょうか?」
他にも女性が喜びそうな贈り物は色々ありそうだけど…。
「それがね、後で私も気になって訊いたんだけど、私が最初に会った日に『花が好き』って言ったって言うの。私はそれを全然覚えてなくて…」
「フェルト女史がお花を好きなのは、事実なんですか?」
「確かに好きだけど…特別好きな訳じゃなかったのよ?無意識にそんな事を言っちゃったのかしらね?でも、その一言で、毎日花を贈るのも……ねぇ?」
なかなかだな。
「で、1ヶ月毎日お花を贈られて…それで?」
「毎日、毎日、花と一緒にメッセージカードが入ってて。それに、愛の言葉が書いてあったわ。それと食事のお誘いね。
宰相が毎日、毎日、職場を離れてて、この国が心配になっちゃったわよ」
そう言ってフェルト女史は笑った。
確かに、私もそう思いました。
「でも、1ヶ月ずっと断っていたんですか?」
「そうなの。いつもお断りしてたんだけど、1ヶ月経った時に、商会の会長から『頼むから食事ぐらい付き合ってあげてくれ。毎日、毎日商会に来られて、どうにかなりそうだ!』って言われちゃったの。
それで、仕方なくお食事をご一緒したのよ」
「で、それからどうなったんですか?」
この状態から、結婚まで持ち込めるなんて、宰相凄いな。
「食事が終わって、家に送ってもらう馬車の中で、プロポーズされたわ。でも、私はその時25歳で、適齢期も過ぎてたし、結婚する気もなかったし。もちろん断ったんだけど…」
「だけど…?」
まさか?
「また翌日から、今度は毎日プロポーズされたの」
「はぁ……凄いですね…」
開いた口が塞がらないってこう言う事を言うんだろうな。
「でしょう?私、なんだか怖くなっちゃって」
わかります。
「なのに何故ご結婚を?」
「何故かしらね?『絆された』と言うのが本当の所だけど…彼なら私を裏切らないって思えた事も大きかったと思うわ」
「確かに。そこまで自分の事を想ってくれる人になかなか出会えないですよね」
「ねぇ。シビルさんは、『番』って知ってる?」
「えっと…獣人には本能的に求める運命の相手みたいなのが居るんですよね?でも、今はそういう本能が殆んど残っていないと聞いていたのですが…」
アルティアでもそう聞いていた。
「私もそう思ってたし、そんな相手が居るっていう獣人も周りに居なかったの。でも、主人は私の事を『番』だと思ってるのよ」
「『番』って同種族ではないんですか?」
「昔の文献では、同種族が多かったけれど、その限りではないと書かれてたわ」
「調べたんですね?」
「えぇ。主人がそう言うものだから、つい気になって。でも、良くわからなかったわ。だから、もう主人がそう思うなら、それで良いかって」
「でも…なんだか、素敵ですよね。私は、恋愛した事もないし、運命の相手?とやらにも出会った事はないですけど、一生に一度で良いから、そんなに誰かに想って貰いたいです。正直憧れちゃいます」
私は素直に羨ましいと思えた。
「…ところで…どうして私の話を?他のお仕事をしてみたいとか?」
と、フェルト女史は私の最初の目的を思い出したようだ。
「いえ。私はこの仕事を辞める気はないんですが…なんだか、その…クビになりそうなんです」
と私が言うと、フェルト女史はびっくりしたように目を丸くした。
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