隣国へ嫁ぐワガママ王女に付いて行ったら王太子に溺愛されました

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
54 / 140

その54

しおりを挟む

フェルト女史と殿下の授業が終わり、私は帰る女史に声をかけた。
殿下の事はレジーに頼んでいる。

「フェルト女史。少しお話をよろしいでしょうか?」
と失礼を承知で呼び止める。

女史は、
「あら、シビルさん。どうしたの?」
と目を丸くしたが、

「話なら、何処かに座りましょうか?」
と言って、ある部屋に案内してくれた。

…正直、畏れ多い場所である事は間違いないが一応私は訊いてみる。

「こちらは…」

「主人の執務室よ。隣に応接室があるから、そちらでお話しましょう」
と言って私を部屋のソファーに座らせると、メイドにお茶の指示を出した。

「で、私にお話って?」
と私に向き合い、フェルト女史が訊ねてくれる。私は、

「あの…フェルト女史はこの国に来た時、何もアテは無かったんですよね?どうやって、女性1人で、生きていく力を付けていったのでしょうか?」
と質問した。
フェルト女史は少し驚きながらも、

「私はこの国に来た時、ほんの少しの着替えとほんの少しの宝石しか持ってなかったのだけれど、たまたま国境を越えた後に出会った夫婦に親切にして頂いたの。
そのお家に住まわせて貰いながら、仕事を探したわ。
でも、私は人間だし、今まではただの貴族令嬢でしょう?最初は全く何処にも相手にされなかったの。
私に出来る事は、読み書きや、算術だったから、主に教師や家庭教師の仕事を探したけれど、全然無くて。
でも、職業紹介所にしつこく何度も何度も通っていたら、ある商会の経理の仕事をやってみないかって言って頂いて。そこで働き始めたわ。
最初は失敗ばかりで…本当に自分は何にも出来ない人間なんだって思い知らされたの。
でも少しずつ仕事を覚えて、なんとか人並みのお給料を貰えるようになった時、今までお世話になっていた家を出たの。
国から持って来た宝石は、そこに全て置いてきたわ。
お礼…なんて言うのは烏滸がましいかもしれないけど、今でも感謝しているし、父と母だと思ってるの。本当の父や母より、私を大切にしてくれたから」
…きっと、穏やかに話をしているけれど、当時は想像出来ない程の苦労があったに違いない。

「苦労…されたんですね」
…何だか軽い言葉に聞こえるが、それしか私には言えなかった。

「そうね。確かに大変だったわ。でも、人間、必死になれば何でも出来るものよ。
婚約破棄に国外追放、それに家族からの裏切り。あの時は死んでしまいたいと思ってたけど、私が今は父母と思っている2人がね、『死ぬのはいつでも出来るけど、生きる事は今しか出来ないよ』って言ってくれたの。
今でもその言葉を胸に頑張ってるのよ」
そうフェルト女史は微笑んだ。

此処をクビになるかもしれないと不安になっていたけれど、私も必死になれば、何でも出来る気がして、少し心が軽くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...