34 / 140
その34
しおりを挟む
私達2人を見ていた陛下は、
「クリスティアーノ。その侍女がどうかしたのか?」
と訊いてきた。そりゃそうだろう。
食事中に急にこの国の王太子が、単なる侍女に話し掛けてるんだもん。
私は小声で、
「王太子殿下、私の事はお気になさらず。
この傷はもう医師にも診てもらっております故、心配はご無用で御座います。
お席にお戻り頂いて大丈夫です。お声がけ、ありがとうございました」
と早口で告げる。
はっきり言って、皆の視線が痛い。
可能なら、今直ぐ消えてしまいたいが、私は魔法使いでもない為、それも無理だ。
とにかく、早くクリスさ…いや王太子殿下に席に戻って貰いたかった。
王太子殿下は、
「…後で話がある」
と私に囁くと、
「陛下。無作法な振る舞い、誠に申し訳有りませんでした」
と謝罪しながら席に戻ってくれた。
しかし陛下はまだ、私の方を見ている。
不審がっている事はその目で分かるというものだ。
「…皆、悪かったな。食事を再開しよう」
との陛下の声で、皆も我にかえり中断していた食事を再開させる。
私は居心地の悪さを感じながら、その場に佇んでいた。
はっきり言って、そこからの記憶はあまりない。
なので、ミシェル殿下が私の事を睨んでいる事にすら気がついていなかった。
晩餐が終わり、私は殿下と共に部屋に戻ると、殿下は、
「あんた、いつの間に王太子殿下と顔見知りに?」
と不機嫌さを隠さず私に訊ねてきた。
「殿下。王太子殿下は、私達を国境から護衛してくださっていた護衛団の団長をされていた方です。
私も仮面を被っていらっしゃったので、その方が王太子殿下とは気づいておりませんでした。先ほど、初めて気がついた次第です」
と私は素直に答える。その答えに、
「は?あの中に王太子殿下が居たと?何故?」
と殿下も私と同じ疑問を口にした。
「それは、私にも分かりかねます。
自己紹介して頂いた時にも、王太子殿下はお名前を…『クリス様』としか教えて下さいませんでしたので、身分を明かすつもりはなかったかと…」
「そう…それは分かったわ。でも、何故あんたとあんな風に喋ってるわけ?」
……それは、貴女が付けた頬の傷のせいですよ…
「国境から、王城まで、何かと私達に気遣い頂きました。その時に言葉を交わす事が御座いましたので、そのせいかと思われます」
私だって、わからない事だらけなのだ。
「ふーん。ねぇ…言っとくけど、分をわきまえなさいよ。あんたが気安く喋って良い相手じゃないんだから」
「はい。もちろん承知しております」
と私は頭を下げた。
私だって、畏れ多すぎてもう喋るつもりもない。
…筈だった。
「クリスティアーノ。その侍女がどうかしたのか?」
と訊いてきた。そりゃそうだろう。
食事中に急にこの国の王太子が、単なる侍女に話し掛けてるんだもん。
私は小声で、
「王太子殿下、私の事はお気になさらず。
この傷はもう医師にも診てもらっております故、心配はご無用で御座います。
お席にお戻り頂いて大丈夫です。お声がけ、ありがとうございました」
と早口で告げる。
はっきり言って、皆の視線が痛い。
可能なら、今直ぐ消えてしまいたいが、私は魔法使いでもない為、それも無理だ。
とにかく、早くクリスさ…いや王太子殿下に席に戻って貰いたかった。
王太子殿下は、
「…後で話がある」
と私に囁くと、
「陛下。無作法な振る舞い、誠に申し訳有りませんでした」
と謝罪しながら席に戻ってくれた。
しかし陛下はまだ、私の方を見ている。
不審がっている事はその目で分かるというものだ。
「…皆、悪かったな。食事を再開しよう」
との陛下の声で、皆も我にかえり中断していた食事を再開させる。
私は居心地の悪さを感じながら、その場に佇んでいた。
はっきり言って、そこからの記憶はあまりない。
なので、ミシェル殿下が私の事を睨んでいる事にすら気がついていなかった。
晩餐が終わり、私は殿下と共に部屋に戻ると、殿下は、
「あんた、いつの間に王太子殿下と顔見知りに?」
と不機嫌さを隠さず私に訊ねてきた。
「殿下。王太子殿下は、私達を国境から護衛してくださっていた護衛団の団長をされていた方です。
私も仮面を被っていらっしゃったので、その方が王太子殿下とは気づいておりませんでした。先ほど、初めて気がついた次第です」
と私は素直に答える。その答えに、
「は?あの中に王太子殿下が居たと?何故?」
と殿下も私と同じ疑問を口にした。
「それは、私にも分かりかねます。
自己紹介して頂いた時にも、王太子殿下はお名前を…『クリス様』としか教えて下さいませんでしたので、身分を明かすつもりはなかったかと…」
「そう…それは分かったわ。でも、何故あんたとあんな風に喋ってるわけ?」
……それは、貴女が付けた頬の傷のせいですよ…
「国境から、王城まで、何かと私達に気遣い頂きました。その時に言葉を交わす事が御座いましたので、そのせいかと思われます」
私だって、わからない事だらけなのだ。
「ふーん。ねぇ…言っとくけど、分をわきまえなさいよ。あんたが気安く喋って良い相手じゃないんだから」
「はい。もちろん承知しております」
と私は頭を下げた。
私だって、畏れ多すぎてもう喋るつもりもない。
…筈だった。
109
お気に入りに追加
4,081
あなたにおすすめの小説

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。


【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる