27 / 140
その27
しおりを挟む私は鏡で自分の頬の傷を確認する。
まぁ、スーッって感じで切れて血は滲んでいるが、大した事はなさそうだ。
例え傷が残るような事になったとしても、殿下が言ったように、私は今後、結婚する予定もないのだから、気にする必要もない。
傷口を一応水で洗うと、ピリピリとした痛みはあるが、触れなければ大丈夫そうだ。
私は廊下の護衛に声をかけ、医務室を教えて貰う。
出来ればガーゼか何かで傷を覆って、なるべく触れないようにしてしまいたかった。
医務室に着いて扉を叩くと、
「どうぞ」
の声。
私はそっと扉を開けると、そこには綺麗な銀髪の長い髪に、茶色の大きな三角の耳、大きな尻尾を持つ若い男性が居た。
ここのお医者様かな?
私が挨拶をして入ると、
「おはよう!僕は此処で医師をしている、オットー・キャンベルだよ。よろしくね~。
君は…新しく来たアルティアのお姫様の所の娘かな?」
「はい。あの…」
と私が言いかけると…
「ちょっと!頬が傷になってるじゃないか!女の子が顔に傷なんて…さぁ、直ぐこっちに座って。急いで処置をしよう」
…ガーゼの1枚でも貰えれば…と思ってたんだけどな…。
「あの…大した事ないので、ガーゼ…」
「早く!自分で座れないなら、仕方ないな」
とキャンベル医師は扉の所で躊躇っている私をさっと抱き上げた。
「!ちょ、大丈夫です!歩けます!自分で座れます!」
と必死に訴えるも、キャンベル医師は私を離す事なく、そのまま椅子に座らせた。
「さ、大人しく僕に手当させてね~」
とキャンベル医師は私に優しく言うと、テキパキと私の頬の処置を終わらせた。
「さて。これで終了っと!見た目よりちょっと傷は酷かったよ?
もしかしたら、うっすら跡が残ってしまうかもしれないけど…」
「あ、ありがとうございました。別に、跡が残っても、特に問題はないので、大丈夫ですけど。」
「女の子が何言ってるの!」
「えっと…特に嫁ぐ予定もないですし…それに、うっすらなら、化粧で誤魔化す事も出来ますから。
では、私、これで失礼いたします。本当にありがとうございました」
と私が頭を下げると、
「待って!君の名前は?」
「あ、申し遅れました、私、この度アルティア王国から、ミシェル王女の侍女として共に参りました、シビル・モンターレと申します。よろしくお願いいたします」
と私が名乗ると、
「シビルちゃんね!ねぇ、君は僕に触られて嫌だった?」
…どう言う意味だろう?
「手当て…の事ですか?もちろん嫌な訳はありません!ガーゼでも当てとけば良いかな?なんて思っていたのに、こんなきちんと手当して頂いて…感謝しております」
と私は慌てて自分の気持ちを告げる。
「そっか。じゃあ、別に君は獣人が嫌だとかないんだね?」
私はハッとした。もしかしたら、キャンベル医師は、人間が嫌いだったのかも。
それなら、私の手当なんて嫌な事だったかもしれない。
「すみません!もしかして、私に触れるのが嫌だったのでしょうか?
私は自分がそういう…その…獣人だとか、人間だとか区別していなかったので、気がつきませんでした。申し訳ありません」
と私が謝ると、
「違う、違う!ほら…君が今言った様に、獣人を嫌がる人間も居るからさ。
手当って言っても、シビルちゃんが嫌だったかな?って気になったんだ。
僕は君と一緒。そんな区別するのはバカらしいと思ってるからさ。同じ『人』だろ?」
「はい。私もそう思っております。ただ、そうでない考えを持つ人が居る事も理解しているつもりですので…」
…キャンベル医師が私と同じ思考の人でホッとする。
ここ(王城)でも、私達に悪感情を持たない人が1人でも居る事が嬉しかった。
「ねぇ、シビルちゃんは、さっき嫁ぐ予定はないって言ってたね」
「はい。ここには殿下のお世話をする為に来たので」
「そっかぁ。じゃあさ、結婚するかどうかは置いといて。…僕とお付き合いしない?」
「………へ?」
能面女でも、驚くよ?
119
お気に入りに追加
4,083
あなたにおすすめの小説

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている
百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……?
※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです!
※他サイト様にも掲載

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる