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その25
しおりを挟む私の人権が、殿下には全くもって認められていないことにショックを受けている場合ではない。
せっかく殿下が起き上がったチャンスは逃さない。
お陰でなんとか、朝の仕度をし、朝食を食べる時間には間に合った。
まだ、殿下は只の婚約者である為、城で来客が使用する食堂で朝食を頂く事になっていたのだが…
「この部屋で食べるから、持ってきてちょうだい」
「畏まりました。では、少々お待ち下さいませ」
…まぁ、想像はしていたし、なんならホッとしている。
獣人の給仕の方々に、殿下が不躾な視線を寄越さないとも限らない。
しかし、そこまでこちらの国の人々の世話になるのを拒むなら、彼らの作った食事を食べ、洗濯したシーツで眠る…いやいやその前に、この国で作られた農作物の輸入で、アルティアは食料を確保していたのだから、そもそもアルティアで出されていた食事だって、何ならこの国の人々の手で作られている食材を使っているのだ。
既に殿下はアルティアに居たときから、この国の人々にお世話になっているのだが…
まぁ、それを言ったところで、殿下には理解出来ないだろうけど。
私は廊下の護衛に声をかけて厨房へ朝食を取りに行く。
「すみません。今朝は部屋で食事を取りたいと仰るのですが…その様に準備して頂けますか?」
と私が声を掛けると、料理人達はチラリと私を見るが、返事もせずにワゴンに殿下用の朝食を乗せて、私にそのワゴンを押し出す。
まぁ、好かれてはいないよな…とは思うが、返事ぐらいして貰いたい。
腐っても、殿下はアルティア王国の王女なのだ。しかもこの国の王子の伴侶となる為に遠路遥々やって来たのにな…と思うと、やりきれない。
「ありがとうございました」
とお礼を言う私に、誰も見向きもしなかった。
私は虚しさを胸に、殿下の元へ戻る。
護衛に頭を下げ中に入った。
「遅い!お腹が空いたわ」
…私の中の虚しさが更にマシマシだ。
私は誰の為に存在しているのか…ううん。考えるな!私は、実家の為、妹の為に存在してるのだ。お金!お金!。
殿下が朝食を食べ終わり、私が淹れたお茶を飲んでいる時、私は意を決して、殿下に、
「殿下、この国の王太子殿下のお名前をご存知でしょうか?」
と聞いてみた。
すると、殿下は私を睨んで、
「あんた、私を馬鹿にしてるの?王太子は『クリスティアーノ・ベルマン』でしょ?」
…何故名前を知っているのに、昨日、間違えたのか…
「では、その王太子殿下がこの国の第一王子でない事はご存知でしたでしょうか?」
「………………へ?」
殿下はたっぷりと長い間を取った後、間抜けな返答をした。
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