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その21
しおりを挟む夕食は、今日はお疲れだろうとの事で、部屋で取る事になった。
私としても有難い。
また、晩餐用にドレスを着付けるとなると、重労働が待っているからだ。
明日からは、殿下はこの国の王族となるべく、王子妃教育が待っている。
私が夕食を済ませた殿下に湯浴みをさせると、流石に疲れた殿下は、早々に床についた。
私は殿下の夕食の食器を片付けるついでに、自分の分の夕食を厨房へ取りに行く。
ワゴンを押しながら、今日の出来事についてを思い出す。
きちんとアルティアからの手土産について、『説明をしたのか?』という私の問いに、
「したわよ!」
と逆切れしてみせた殿下…。
あれは、絶対にちゃんと説明出来なかったんだなと私は予想した。
我がアルティアの輸出の要である鉱物。
これにはもちろん宝石も含まれる。
この国の王族の瞳の色に合わせた宝飾品をたくさん持ってきたし、特にレイラ妃陛下に作ったエメラルドのネックレスとイヤリングと指輪のセットは見事な出来映えだった。
我が国の宝飾品を作る最高峰の職人の技が光る逸品だ。
流石、鉱物で成り上がった国だけあって、職人もかなりの腕を持つ者が多いのだ。
それを上手く売り込めば、ベルガ王国の貴族から、我が国へ、アクセサリーの加工を依頼される事も増えるのではという、ライル王太子殿下の思惑は外れてしまったかもしれない。残念だ。
私がトボトボとワゴンを押していると、
「おい」
と声が聞こえた。
振り返らなくてもわかる。…多分クリス様だ。
私は振り返る…当たり。仮面姿のクリス様だ。
「クリス様…ご機嫌よう。どうかされましたか?」
と私が訊くと、
「何処へ行くんだ?」
「厨房です。この食器の片付けと、私の食事を取りに…」
と私が答えると、
「そうか。じゃあ、俺と夕食を共にしよう」
と言われる。…何で?
「申し訳ございません。私は長く殿下の側を離れる事は出来かねます。
それに、今日は私も些か疲れていまして…」
私は失礼かもしれないと思いながらも、やんわりと断った。
「…そうか…じゃあ、いつなら良いんだ?」
…殿下の侍女は私しかいない。
はっきり言えば、ずっと無理だ。
「申し訳ございません。せっかくお声掛けして頂いたのですが、殿下には私しか専属侍女がおりませんので…」
「それだよ。何故?まさか陛下が、王女の元へわざと侍女を寄越さなかったのではあるまい?」
…殿下が獣人嫌いだから、断ったんですよ…なんて言いにくい。
私が口ごもっていると、
「どうせ、王女が獣人を嫌って断ったって所だろうが…それではお前の体が持つまい」
…ご名答。
だがしかし、元はといえば、ベルガ王国が侍女は1人だけなんて条件を付けなければ、私が1人きりになる事なんてなかったのだ。
…まぁ、もし、何人も侍女を連れてきて良いう話だったら、他の侍女達も断る事が出来ず、私にこの話は回って来なかったかもしれない。
そうなると、実家の借金を支払ってもらう話も、2倍の給料の話もパァになっていたのかと思えば、複雑だがこの状況に感謝するしかない。
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