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第36話〈最終話〉
しおりを挟む父の病状を鑑みて、挙式は大切な人のみを招待した。
しかし、ジュネ公爵家の結婚式。
重要人物が目白押しで護衛の数が盛りだくさんになってしまった事は言うまでもない。
バージンロードをエスコート出来る人が私には居ないので、最初からセドリックと教会へ入場する。
……何故か私の隣で何度も深呼吸をしている男が居る。
「セドリック……体調でも悪いの?」
扉の前でスタンバイしている私は小さな声でセドリックに尋ねた。
「体調は悪くない。ただ……緊張しているだけだ」
「緊張?!貴方が?いつも飄々としてるのに?」
と私は驚く。
「お前は2回目だから緊張しないかもしれないが、俺は初めてなんだ」
「何それ?嫌み?」
…2回目で悪かったな。しかしバージンロードを歩く権利は保持したままだ。
「嫌みに聞こえたか?真実を言っただけだ」
ああ言えばこう言う。
「皮肉を言えるなら、いつもの貴方に戻ったって事かしら?なら、良かったわ」
と私が小さく笑えば、
「お前が俺の事を同士としか思っていない事はわかってる。
だが、俺はもう後悔したくないんでね。
お前があの件で負い目を感じて俺の結婚を受け入れたんだとしても、俺は構わない」
と急にセドリックは真面目な顔で話始めた。
「…どうしたの?急に」
私は隣に立つセドリックの顔を見上げた。
セドリックは私と目を合わせて、
「だがな、俺は自信があるんだ」
「自信?」
「あぁ。お前は何だかんだで情に厚い。陛下の時だってそうだ。最初は浮気者の嫌な奴だと思ってたろ?」
「……別に嫌な奴だなんて思ってないわよ。ちょっとだけ……愚かだと思っただけ」
誰かに聞こえていたら、不敬になること間違いなしの会話だ。
「だが、お前はそんな陛下でも許し、導いた。最後の方は……ちょっと好きだっただろ?」
とセドリックはいつものように皮肉っぽく笑う。
「……ちょっ!別に……好きな訳じゃなかったわよ。尊敬はしてたけど……」
と少しずつ声が小さくなる私に、
「ふん。お前が自分の気持ちにも鈍かっただけだ。
まぁ、何が言いたいかと言うとだな、お前は情に絆されやすい」
「そんな言い方!何だか私が『チョロい女』みたいじゃない!」
私達の声は段々と大きくなっていたようだ。
教会の扉が開かれていた事にも気づかないぐらいに……。
開かれた扉の向こうでは招待客が椅子に座り、こちらに注目していた。
突き当たりでは司祭が思いっきり『ウォッホン!』と咳払いをした。
私とセドリックは急いで笑顔を作り前を向く。……いつからこの扉は開かれていたんだろう。考えるのも恐ろしい。
パイプオルガンから厳かな音楽が鳴り響く。
私達はそれを切っ掛けに教会の中へと一歩踏み出した。
「……貴方のせいで恥をかいたわ」
殆ど口を動かさずに、セドリックへ文句を言う。
「まぁ、いいじゃないか。これからはお前の側には俺が居る。恥をかくなら、一緒にかくさ」
「そういう問題?」
そうこうする内に司祭の前に辿り着いた。
そしてセドリックは、
「今は同士で良いさ。だが、絶対に俺に惚れさせてみせる。覚悟しておけよ」
と長身を屈めて私の耳元で囁いた。
「なっ!」
私はつい耳が熱くなるのを感じて、片手で耳を塞ぐ。
司祭は私のその姿を見て
「私の話しは聞きたくない……そういう事ですかな?オーヴェル侯爵?」
と目を丸くした。
「いえ!とんでもございません!」
と私は手を下ろす。隣のセドリックの肩が微かに震えている。笑ってるな、こいつ。
私達は誓いのキスの為に向かい合った。
やられっぱなしは性に合わない。
セドリックがベールを上げると同時に、私はセドリックのタイを掴み、自分から彼を引き寄せキスをした。
驚いたセドリックは顔を真っ赤にして目を丸くしている。
招待客からは『フゥ~』という声が聞こえたが、知った事か。
「どう?驚いた?」
と私が言えば、セドリックは
「あぁ。だから俺はお前が好きなんだ。賢くて、強くて、可愛くて、奇想天外だ。一緒にいて、飽きないよ」
と笑った。
最後の一言が少し気に入らないが、彼を驚かせる事が出来て私は満足だ。
「貴方のお手並み拝見よ。私を貴方に夢中にさせてみてよ」
「自信があると言ったろう?これから先は長いんだ、一生をかけてでも俺に夢中にさせてみせるさ」
とセドリックは私を抱き締めた。
招待客からは割れんばかりの拍手だ。
私達は結局元サヤ。紆余曲折はあったけれど、結ばれる運命だったのかもしれないと今は思う。
……あ、そういえばセドリックは私に結婚式は『2回目』だと言ってたわね。残念ね。正確に言えば『3回目』よ。
私はセドリックに抱き締められながらそう心の中で突っ込んだ。
ーFinー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
これで、この物語は完結です。
長く、長く続いたクロエの物語が終わってしまうのは、作者としても寂しく思います。
いつの日かまた、クロエを書きたくなったら、どこかで書くかもしれません。
その時は『またか』と思いながらも覗いていただけると嬉しく思います。
初瀬 叶
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