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第31話

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「奥様……もう良いではないですか。貴女がお2人の邪魔をしてはいけません」

ロイが一歩母に近づくと、そう静かに話始めた。

「貴方……何を言ってるの?私が何を……!」
とロイへ食ってかかる母に、

「クロエお嬢様は間違いなくこのオーヴェル侯爵家を守って下さいます。ジュリエッタお嬢様もお変わりになりました。前侯爵様をお任せして大丈夫でしょう。
では……貴女は?このオーヴェル侯爵家の為に貴女が出来る事は?」
とロイは静かにそして優しく母にそう言った。

「…………っ!」
言葉に詰まった母に、ロイは続けた。

「貴女に出来る事は、これ以上お2人の邪魔をしない事です。ご安心下さい。このロイが、修道院までお供いたします。道中、奥様が不自由なく過ごせるよう努めますので。そして……それを私の最後の仕事にさせていただきたいと思います」
そう言ったロイは、ラルフに向き直り、

「奥様が色々とご迷惑をおかけしました。これからもお仕事を頑張って下さい。ただ、このオーヴェル侯爵家とはこれ以上関わって欲しくはありません。この老人の頼みを聞いていただけますかな?」
と微笑んだ。……これ以上ジュリエッタに関わるな……ロイはそう言いたいのだろう。

ラルフは、

「……。わかりました……」
と短く一言告げると、私に、

「今後一切関わらないと誓います。孤児院にも、もう……」
と言おうとした所を、私は、

「孤児院の皆は貴方が行く事を楽しみにしているでしょうし、院長も助かっている筈よ。
ジュリエッタを……行かせないようにするわ。その代りと言ってはなんだし、お金で片付けられる問題ではないけれど、オーヴェル侯爵家からの寄付金を増やします。もちろん、他の孤児院にもね。……だから貴方はこれから、役者としての本分を全うして頂戴。本当は役者の仕事、好きなんでしょう?」
とラルフに笑顔を向けた。

「……はい。……好きです」
とラルフは返事をして、

「先程は色々と失礼な事も言ってしまい申し訳ありませんでした。寄付金……ありがとうございます」
と頭を下げた。

「顔を上げて。貴方の意見はとても貴重だったわ。就業支援がいつの日か実を結び孤児が減る事は今まで通り目指していく所だけど、今、支援が必要な所へ必要な物をきちんと届けるようにするから、安心して頂戴」

私がそう言うと、ラルフはやっと笑顔を見せた。

ラルフがローレンスと去った後、黙りこんでしまった母に、

「さぁ、奥様も参りましょう。修道院へ行く準備は整っております」
とロイは母へ手を差し出した。

「な……!そんな……私……」
と母は泣き出した。やっと自分の今後に明るい未来がない事、そして自分がもうそこから逃げる術がない事を思い知ったようだった。
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