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第28話
しおりを挟む「エンデ修道院ですか……」
とロイは小声で呟いた。
『エンデ修道院』この修道院に入ったら、死ぬまでそこを出られない。
身も心も神に捧げ、俗世を捨てて神に奉仕する。
厳しい戒律と清廉潔白な精神。それがあの修道院の特徴だ。
もちろん、自ら望んでその門を叩く者も居るし、犯罪を犯しその罪を自分の一生を掛けて償う者も居る。
ただ、そこに入れば親兄弟と言えど、2度と顔を見る事は出来ない。
「私が至らないばかりに……本当に申し訳ありません」
とロイは改めて私に謝罪した。
彼の肩は震えている。私はその肩に手をポンと置くと、
「もう謝る必要はないわ。貴方は父に良く支えてくれた。本当にありがとう」
と礼を言った。
「私は此処を辞めようと思います」
ロイは静かに顔を上げるとそう言った。
きっと、そう言い出すだろうと私も思っていた為、驚かないし止めるつもりもない。
「わかったわ。此処を出て、行く宛はあるの?」
「はい。私の弟がやっている農場がございます。そこを手伝って……あとはのんびりやりますよ」
と少し微笑むロイの目尻には深い皺が刻まれていた。体の前で組む手の甲も筋張っていてカサカサだ。
「貴方に無理をさせ過ぎたわ。後は私に任せて」
「……失礼を承知で、昔の呼び方をさせていただきます。
クロエお嬢様は確かに優秀で誰よりも勤勉。私はこのオーヴェル侯爵家の事は心配しておりません。きっと、お父上の代より立派にこの侯爵家を盛り立てて下さるでしょう。
しかし、如何せんお嬢様は人に頼ったり甘えたりするのが苦手でございます。私はそれだけが心配なのです」
とロイは優しく私にそう言った。
「そうね。確かにそうだわ。でも、時には上手に甘えてみせるから安心して。そして貴方が何処に居ても、例え遠く離れていてもオーヴェル侯爵家の名が聞こえる様に努力する。貴方が『あのオーヴェル侯爵家の執事だったんだ』と胸を張って自慢出来るような、そんな領主になってみせるから。楽しみにしていてね」
「ほら、そういう所です。お嬢様は何でも1人でやろうとする。誰かと…手と手を取り合って歩んでいくのも悪くはない、そう思って下さると、私も安心出来るんですがね」
とロイは少し微笑んだ。
それって暗に私に再婚しろって言ってるのかしら?
え?陛下から離縁された女を娶りたいなんて、そんな奇特な人この世に居るかしら?
「そこには……あまり期待しないで」
と私は少し肩を竦めた。
そして、
「ここはマルコに任せるわ。貴方も休んで頂戴。母には明日、私から話すから」
と私が言えば、
「今日は休ませていただきますが、明日は私も同席させて貰っても?それが私の最後の仕事になりそうなので」
と言うロイに私は、
「わかった。では最後まで見届けてちょうだい」
と頷いた。
私は扉の側で控えていたマルコ様に、
「母を見張っていて。廊下にも護衛を寄越すから」
と言って廊下へ出た。
廊下で控えていたマリアに、
「主治医を呼んで。睡眠薬とお酒を一緒に飲んだみたいなの。一応診てもらって」
と告げる。
そして私は自分の部屋に戻りながら、
「明日、方をつけてしまいましょう」
と1人決意を新たにした。
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