28 / 36
第28話
しおりを挟む「エンデ修道院ですか……」
とロイは小声で呟いた。
『エンデ修道院』この修道院に入ったら、死ぬまでそこを出られない。
身も心も神に捧げ、俗世を捨てて神に奉仕する。
厳しい戒律と清廉潔白な精神。それがあの修道院の特徴だ。
もちろん、自ら望んでその門を叩く者も居るし、犯罪を犯しその罪を自分の一生を掛けて償う者も居る。
ただ、そこに入れば親兄弟と言えど、2度と顔を見る事は出来ない。
「私が至らないばかりに……本当に申し訳ありません」
とロイは改めて私に謝罪した。
彼の肩は震えている。私はその肩に手をポンと置くと、
「もう謝る必要はないわ。貴方は父に良く支えてくれた。本当にありがとう」
と礼を言った。
「私は此処を辞めようと思います」
ロイは静かに顔を上げるとそう言った。
きっと、そう言い出すだろうと私も思っていた為、驚かないし止めるつもりもない。
「わかったわ。此処を出て、行く宛はあるの?」
「はい。私の弟がやっている農場がございます。そこを手伝って……あとはのんびりやりますよ」
と少し微笑むロイの目尻には深い皺が刻まれていた。体の前で組む手の甲も筋張っていてカサカサだ。
「貴方に無理をさせ過ぎたわ。後は私に任せて」
「……失礼を承知で、昔の呼び方をさせていただきます。
クロエお嬢様は確かに優秀で誰よりも勤勉。私はこのオーヴェル侯爵家の事は心配しておりません。きっと、お父上の代より立派にこの侯爵家を盛り立てて下さるでしょう。
しかし、如何せんお嬢様は人に頼ったり甘えたりするのが苦手でございます。私はそれだけが心配なのです」
とロイは優しく私にそう言った。
「そうね。確かにそうだわ。でも、時には上手に甘えてみせるから安心して。そして貴方が何処に居ても、例え遠く離れていてもオーヴェル侯爵家の名が聞こえる様に努力する。貴方が『あのオーヴェル侯爵家の執事だったんだ』と胸を張って自慢出来るような、そんな領主になってみせるから。楽しみにしていてね」
「ほら、そういう所です。お嬢様は何でも1人でやろうとする。誰かと…手と手を取り合って歩んでいくのも悪くはない、そう思って下さると、私も安心出来るんですがね」
とロイは少し微笑んだ。
それって暗に私に再婚しろって言ってるのかしら?
え?陛下から離縁された女を娶りたいなんて、そんな奇特な人この世に居るかしら?
「そこには……あまり期待しないで」
と私は少し肩を竦めた。
そして、
「ここはマルコに任せるわ。貴方も休んで頂戴。母には明日、私から話すから」
と私が言えば、
「今日は休ませていただきますが、明日は私も同席させて貰っても?それが私の最後の仕事になりそうなので」
と言うロイに私は、
「わかった。では最後まで見届けてちょうだい」
と頷いた。
私は扉の側で控えていたマルコ様に、
「母を見張っていて。廊下にも護衛を寄越すから」
と言って廊下へ出た。
廊下で控えていたマリアに、
「主治医を呼んで。睡眠薬とお酒を一緒に飲んだみたいなの。一応診てもらって」
と告げる。
そして私は自分の部屋に戻りながら、
「明日、方をつけてしまいましょう」
と1人決意を新たにした。
58
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる