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第17話
しおりを挟む母は元執事を連れてプリプリと怒りながら、自分の部屋へと引っ込んだ。
彼が母に逆らえない事を良い事に、今度は何をさせるつもりなのか……私は2人の背中を溜め息をついて見送った。
立ち尽くす私にセドリックは呆れた様に、
「夫人はどうしたんだ?ちょっと……おかしくないか?」
と私の耳元に小声で言った。
私も、
「元々……常識外れな所はあったし、どこかフワフワしている人ではあったけど……他人の前で恥も外聞もなく、あんな事を喚くなんて……確かに、何だか変だわ」
私は小さく遠ざかる母の背中を見て眉を潜めた。
私は振り返りローレンスを呼ぶ。
「ねぇ、もう1度ラルフとの事を調べてくれる?」
と私がローレンスに頼むと、彼は二つ返事で頷いた。
私とセドリックは執務室で向かい合う。
「ラルフって、あの役者の事だろ?」
「そう。実はその彼がジュリエッタに懸想してて……」
と私はローレンスが調査した事をセドリックに話して聞かせた。
セドリックは目を丸くして、
「へぇ~そんな事が偶然でもあるんだな。驚いたよ。……もしや運命ってやつか?」
と苦笑した。
「『運命』なんて、こんな時に使わないでよ。でも、不思議な縁でもあるのかしらね」
と私も苦笑した。
ひとしきり苦笑した後、セドリックは急に真面目な顔で、
「前侯爵……あまり良くないんだろ?」
と訊ねてきた。
私と主治医が出て行った事で、おおよその予想はついているのだろう。
「ええ……。目を覚ましたのは奇跡かもしれないわ。これからどうなるのか……少なくとも元通り……って言うのは難しいわね」
と私は言葉を濁した。
……最悪な結果については口に出すのが怖かった。口に出すと、真実になりそうで。
しかしセドリックはそんな私の気持ちを見透かしているかの様に、
「……覚悟が必要って事か。ジュリエッタ嬢には黙っていた方が良いだろうな」
と言って口を真一文字に結び目を閉じた。
ジュリエッタが私を庇ったような発言をした事については正直驚いた。
確かに仲良しこよしの姉妹ではないが、今、悪戯にジュリエッタを不安にさせるのも憚られる。
私は、
「そのつもり。でも……父の側に居るのはジュリエッタだもの。気付くのも時間の問題かもしれないわ」
と少し俯きながらそう言った。
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