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第14話

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「正直に言うわ。今の執事はどうも母に強く出れないのよ。今まで父からずっと母の好きにさせるように言われてきたからなのか、母も彼を馬鹿にしている節があるの。元々の優しい性格も相まって母の愚行を止める事が出来ないでいるの。私への報告も遅れがちだし」
と私が言えば、

「まさか…女王様のお母様を私に口説けと言うのではないですよね?」
とローレンスは不安げに言った。

「まさか!そんなつもりはないわ。私が貴方に頼もうと思ったのは、私の手となり足となり働いてくれる事がわかっているからよ。
まぁ、確かに貴方なら母と大きく揉めずに宥める事が出来るんじゃないか…との期待も込めてだけど」
と私が少し笑うと、ローレンスは少しの間考えてから、

「それならば、私の能力が役に立ちそうですね。…でも良いのですか?私みたいな者が女王様の側に侍っていても」
とローレンスは苦笑した。

その日から、ローレンスは正式に私専属の執事となったのだった。

ローレンスは上手いこと母を宥めてくれてはいたが、彼だって母に目を光らせる事だけが仕事ではない。何ならそれはおまけだ。
母は私達の目を盗んで、あの役者…ラルフの元へと会いに行っているようだ。
だが、母が自由に出来るお金は随分と限られている。ラルフを独り占め出来ずに悶々としているようだった。
観劇をするだけのお金はあるのだから、それで満足してれば良いものを…私はそう思うのだが、母にとってはそれだけでは不満だったようだ。母の不機嫌さは日に日に募っていくようだった。
そんなある日。

「お姉さま!早く!早く、お医者様を呼んで下さい!」
私の執務室にジュリエッタが転がるように入ってきた。後ろからナラも追いかけて来ているが、なんせ歳が違う。ナラは息切れしているようだ。

セドリックと今後の事業展開について話をしていた私は思わず立ち上がり、

「お父様に何かあったの?!」
とジュリエッタに訊ねた。ジュリエッタは、

「お父様が…お父様が目を…!目を覚ましました!」
との慌てたジュリエッタの言葉に、セドリックは、

「わかった。直ぐに主治医に連絡させよう」
と驚いて呆然としている私に代わって、即座に動いてくれた。
その言葉にローレンスは直ぐに部屋を出ていく。

やはり持つべきものは、冷静な仕事仲間だ。
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