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第13話

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彼は恵まれた容姿と類いまれなるコミュニケーション能力で幾多の女性を虜にしてきたのだが、もちろん私にはそれは通用しない。
なんてったって私は当時、王妃だ。その上、側に推しが居る。

そんな私にローレンスは、

「王妃様に会えるなど…この上ない光栄にございます。しかし、私では王妃様のお相手は務まりますまい。何故…私に興味を持たれたのです?」
と胡散臭い笑みを浮かべた。

浮気相手を探しているのではない事は、彼にはお見通しだった様だ。
多くの貴族の婦人方を相手にしている為か、所作も美しい。なかなか綺麗な男だった。しかし、私が興味を抱いたのはそこではない。

「ここからは秘密の話。私が個人的に出資している商会があるのだけれど、貴方、そこで働いてみない?」
という私の問いに、

「何故、私にそのような話を?」
とローレンスは不思議そうにそう言った。

「貴方が関係を持ったご婦人方、皆さん貴方を褒めるのよねぇ。まぁ、嫉妬深い女性はどこにでも居るから揉め事が絶えないのは仕方ないにしても。
それに貴方の方から、そのご婦人方の秘密が漏れた事は一切ない。口が固いのね。気に入ったわ」

「それだけの理由で?」

「貴族の流行は、まず女性からよ。女性の好みを調査する能力に、貴方は長けてる。
それに、そろそろヒモのような生活を辞めて、お母様を安心させてあげたら?ちなみに…お母様の治療費が十分に支払える程のお給金を提示するわ」
と私が微笑めば。

「母の事…ご存知でしたか…」
とローレンスは呟いた。

「随分と難しい病気のようね。治療費も馬鹿にならなかったでしょう?今まで、1人で頑張ってきたのね。もう大丈夫よ。私が居るから」
と私が言えば、

「母1人、子1人で生きてきました。私にとって、何より大事な母です。しかし、同情はされたくありません」
とローレンスは少し固い表情で言った。

「手っ取り早く稼ぐ方法として、犯罪に手を染めなかったのも、お母様の事を思ってでしょう?貴方、そういう所は真面目ね。お母様を愛していらっしゃるから、悲しませたくないのでしょう?
ならば私の提案を飲みなさい。言っておくけど、同情ではないわ。これはビジネス。私は貴方のその能力を買うの。ビジネスに情は必要ないでしょう?貴方が役に立たなければ、私の目が雲っていたということ。見る目がなかったと諦めるわ。
お母様には療養出来る施設も探してあるわ。治療もそこで受けられる。どう?悪くない話でしょう?」

あの時の私の直感はローレンスが自分にとってとても『使える男』になるだろうと告げていた。
そして、その直感は見事に当たっていたのだ。
彼の母親もかなり快方に向かっている。
お互いWin-Winの関係であった。
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