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第6話

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「はぁ…。随分と使い込んでいたのね」
と私は執事に見せられた母の支出に頭を抱えた。

「申し訳ございません。侯爵には絶対に秘密にするように…と。侯爵も訊ねてこられませんでしたので…」
と、申し訳なさそうに小さくなった執事に、

「私が彼女に興味を持っていなかったのも悪かったの。使い道を…貴方は知っていたの?」
と私が執事を見れば、彼は肩をピクリと震わせた。…知っていたらしい。

「あ…あの、最近はある役者の方の支援をされておりまして…」
と段々と声が小さくなる執事に、

「彼女に与えたお金だけでどうにかする分には…まぁ、文句はないわ。でも…これは…父のお金まで使ってるわね?父の資産まで。これは見過ごせないわ」
と私は見せて貰った書類を机の上にパサリと投げた。

執事はその音にまたもや肩をピクリと震わせた。
余程黙っていた事を申し訳ないと思っているのか…余程私が怖いか…だ。

「とりあえず、父の資産に彼女が手をつけられないように手続きして。
夫婦だからと出来るようにしていた父の甘さね。
彼女が彼女の持ち物を売ってお金にするなら、私は文句を言わないわ。
そこまでしてでも、その役者を支援したいならね」
と私が言えば、

「そんな!前侯爵夫人が物を売ってお金に替えるなど…そんな恥ずかしい事を…!」
と執事は信じられない者でも見るような目で私を見た。

「役者に入れあげて、お金を貢ぐ方がよっぽどみっともないわ。
しかも自分の夫は意識も戻らず病床についているのによ?
そうしたいなら、離縁してからにすれば良いのよ。…貴方だって…母が何をしているのか…知らない訳ではないのでしょう?」
と私が言えば、執事は私の視線から逃れるように顔を伏せた。

「貴方を責めている訳じゃないわ。
でも、いくら父の頼みで母がやることに口出ししないよう言われていたとしても、今の侯爵は私なの。
貴方も彼女の行動に思うところがあったでしょう?私が無関心なのも悪かったけど、もう少し、早くに相談して欲しかったわ」
と私が言えば、執事は、

「本当に申し訳ございません」
と白髪の増えた頭を下げた。

「とにかく、今後、母が変な行動を起こしたら直ぐに連絡してね。仕事では『報・連・相』が大事なんだから!」
と私が言えば、

「ほ、ほうれんそう?ですか?あの野菜の?」
と執事は不思議そうにした。

「違うわ。『報告・連絡・相談』を略して『報・連・相』よ。仕事を円滑に進める為の合言葉とでも覚えておいて頂戴」

と言う私に、執事は何度も、「報・連・相」「報・連・相」と呟きながら、私の執務室を出ていった。
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