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第2話

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翌日、私と陛下の離縁と同時に、セイン殿下を王太子にする事が発表された。

父は意識が戻らぬままだ。
母は私と陛下の離縁を知って怒り狂った。
彼女にとって大切なのは侯爵夫人であり、王妃の母親であるという肩書きだ。

『そんなに文句があるのなら、出ていってくれても構わない』という私の言葉に、激昂しながらも家を出て行かないのは、彼女自身、この家を離れてもどうにもならない事がわかっているのだろう。
彼女の実家はすでに代替わりをしている。帰った所で彼女の居場所はない。

私が王宮を去る日、私はオーヴェル侯爵を継ぎ『クロエ・オーヴェル侯爵』となった。
新しい人生の始まりのような気分だ。

マルコ様には、近衛に戻る事を提案したのだが、『私はクロエ様の騎士なので』と断られてしまった。

マルコ様を専属護衛にする事は、王妃となる交換条件の様なものだった。なんとなく王妃を退いた私がマルコ様を独り占めするのは後ろめたい。

「ねぇ、セドリック。マルコを近衛に戻す事は可能かしら」
私は王宮を去る前日にセドリックへ頼んでみたのだが、

「あいつはお前の側を離れないだろ?本人の意思を尊重したらどうだ?」
と言われてしまった。
困ったら俺に頼れと言っていたくせに、頼りにならない男だ。


それと…私が王宮を去ってすぐに、驚くべき事が起こった。

反王妃派の貴族で、特に私を糾弾していた家の領民が大量にその領地を離れたのだ。

今回の離縁で特に大きな顔をしていた、反王妃派の3家の領地は一気に産業が立ちいかなくなった。畑を耕す領民も、機織りをする領民も居なくなったのだ。
納税者が減る事は領地にとって大打撃だ。
その3家が今後困窮する事は目に見えていた。

「まぁ…ロイド侯爵領とモンロー子爵領とミズーリ辺境伯領が?」
と私が驚くと、

「はい。あの3家の領地から出た領民を受け入れているようです」
とマルコ様が答えた。

「国民は怒っているんですよ!クロエ様が王妃でなくなったのは、反王妃派のせいだと知ってるんです。
他の反王妃派の貴族の領地からも、じわじわと人が減っているようですし」
とナラがプリプリと怒りながら言った。

「それではその3つの領地に人が溢れてしまうわ。…オーヴェル侯爵領でも受け入れを開始しましょう」

ありがたい事だ。ロイド侯爵にもモンロー子爵にも、ミズーリ辺境伯にも感謝しかない。それに、私を支持してくれた国民にも。

侯爵として私はオーヴェル家を支えていく。そう決心し、実家に帰ると……そこには何故かジュリエッタの姿があった。

「ジュリエッタ…貴女修道院は?」
私が驚いて訊ねると、

「お姉さまにお願いがあって戻って来たの。お父様のお世話を私にさせてくれないかしら?」
とジュリエッタは固い表情で私に彼女の決心を告げた。




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