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第93話
しおりを挟む「貴女、ルシウスに何を言ったの?」
今日は王妃陛下のお茶会に招待されました。
正直な所…王妃陛下は苦手です…あちらも私を気に入っていない事も良くわかっておりますが。
「何を…と仰いますと?どのようなお話の事でしょうか?」
「急にあの子…美容に興味を持つようになったのよ。私の使っている保湿剤や、香油を訊ねてきたり、睡眠不足は美容の敵だとかで、驚くほど早寝をするようになったり…貴女が何か言ったせいでしょう?」
……心当たりがないとは言い切れません。
先日、ルース様の好きな所を訊ねられて、私が顔!と即答した時にルース様はとても寂しそうな顔をした後に、『顔かぁ…そうか…」と呟いておりました。そして、『ならば、大切にせねば』とも呟いていらっしゃいました。それが原因でしょうか?
私が答えに困っていますと、
「アナ!王宮に来ていたんだね!なんで僕の所に顔を出してくれないの?」
とルース様が大股で近づいて来ました。
「なんですルシウス。今日は私がお茶会に招待したのですよ?」
と王妃陛下が仰っても、
「わかってますよ。でも、もう良いでしょう?さぁ、アナ、僕の部屋へ行こう」
と私を立たせようとします。
私が王妃陛下とルース様の顔を交互に見ながら、席を立つ事を躊躇っていると、
「貴方…やっぱりアナベルが好きなのね」
と妃陛下は微笑んだ。そして、
「婚約者を決めるお茶会で、アナベルが全然自分に興味がなかった事を、ひどく気にしていたものね。『どうしてあの娘は僕に話しかけてこないんだろう?』ってね。
結局、お茶会が終わって、どのご令嬢が良かったのか訊ねても、他のご令嬢の名前は出てこなかったわ。『僕に話しかけてこなかったご令嬢はどこの娘?』ってそればかり。
…結局、その時からアナベルを好きだったんでしょうね」
と続けられました。
「確かに、僕の印象に残っていたのは…アナだけだった。…そうか…僕はそんな時からずっとアナを好きだったのか…」
…あの時の私はルース様に一目惚れはしたものの、“喋らず、触らず、壊さず”を貫き通しておりました。
他のご令嬢との会話に耳を澄ませておりましたが、確かに自分からはルース様の元へと行く事はありませんでした…まさかそれが効を奏してしたなんて!
昔の私、グッジョブですわ!
「あの後、アナベルに婚約を打診しようかと陛下と悩んでいる時に、クラーク公爵からアナベルの売り込みがあったのよね。びっくりしたわ…クラーク公爵も野心家ではなかったし、まさか、あちらから言ってくるとは思わずに。
…ついつい私は、何か裏があるのではないかと勘ぐって…アナベルには殊更厳しくしてしまったわね。
それでも、アナベルはへこたれなかった。良く頑張ったと思うわ」
…初めて妃陛下に褒められました。
だからといって今までの苦手意識が一掃される訳ではありませんが、努力の甲斐はあったとそう素直に思えましたわ…。
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