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第78話
しおりを挟む「もう、いい加減にしないか!」
会場の入り口の方からゆっくりと歩いてきた男性が、大きな声でバジル男爵夫人を咎めました。
…あれは確か…バジル男爵ですわね。
口ひげの立派な、黒髪の男性。バジル男爵は殿下の前に来ると、深々と頭を下げました。…どうしたのでしょうか?
バジル男爵夫人は、自分の夫の登場に動揺しているようです。
「あ…あなた…」
とバジル男爵夫人は、男爵に声をかけようとしますが、それを遮るように、男爵は夫人と学園長に向かって、
「証拠ならありますよ。これです」
と数枚の手紙を、私達に見えるよう掲げました。
それを見て顔色を変えたのは夫人です。
「あ、あなた!それは私の…!」
と思わず男爵に駆け寄ろうとして足が縺れて床に倒れ込みました。
バジル男爵令嬢は、母親に、
「お母さん、大丈夫?」
と手を貸そうと近寄りましたが、床に座り込んだままの男爵夫人は、
「それは、私の物よ!勝手に部屋に入ったのね!」
と叫んでいます。
「うるさい!あそこは私の屋敷だ。どの部屋にも出入りは自由だろ?
それに、私は君にすっかり騙されていたようなのでね」
と吐き捨てるように言いました。
殿下も私も黙って、事の顛末を見守ります。
「騙したなんて…人聞きが悪いわ!」
「じゃあ、これはなんだ?
学園長から、約束を反故にされぬよう、契約書代わりにこの手紙を取っておいたようだが…。こんな物でもしっかりとした証拠になるだろうな。
殿下に言われて、半信半疑で君を探った時にこれを見つけた。私はそこから君を調べたんだ。
全く…君という女は嘘ばかりだ。
私には、幼馴染みと結婚し子どもが出来たが、不慮の事故で夫を亡くし、女手一つで子どもを育てていると言っていたな?
私も妻を亡くした身。
君の身の上話を聞いてすっかり同情してしまった。しかし…全部嘘だったようだな」
「う、嘘なんて…」
「嘘だろう?君は結婚していた時に、そこの学園長と不貞関係となった。
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そして君は妊娠した。そこの学園長との子どもを。それがメリッサだ」
それを聞いたバジル男爵令嬢は、
「そんな…お母さん嘘でしょう?お父さんは死んだって…」
と目を丸くして驚いている。
それは周りの生徒も同じだ。…もちろん私も。
驚いていないのは、殿下と、ギデオン様、そしてダニエル様だけだ。
学園長は、愛妻家で有名で…。確か実家は侯爵で、学園長は次男であったため、奥様の公爵家に婿入りしたと聞いていた。
我が国は一夫一婦制。基本的に不貞はご法度なのだが…。
これは…不味いんじゃないかしら?
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