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第68話

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「今日は皆、大いに楽しんで、学園での思い出を作って欲しい。それでは、舞踏会の開幕!」

学園長の挨拶と共に、皆がパートナーとフロアに出て行きます。その様は中々見応えがありますわ。

流石に全員は1度には踊れない為、上位貴族の面々から…というのが不文律ですの。

「さぁ、アナベル。僕と踊ってくれるよね?」

と殿下が恭しく私に手を差し出して下さいました。私も、

「喜んで」
と笑顔でその手に自分の手を乗せると、フロアへと移動いたします。

殿下とのダンスは練習以外では久しぶりなのですが、だてに5年も婚約者をしているわけでは御座いません。私達の息はピッタリですわ。

「アナベル。今日は僕と一緒に居てくれるよね?」
とダンスを躍りながら、殿下は何故か心配そうです。

「?殿下のお時間の都合が良ければ、もちろんですわ。生徒会のお仕事はよろしいのですか?」

「あぁ、さっきも言ったように親切な者が手伝ってくれている。大丈夫…だと思うよ」

…というより、殿下はバジル男爵令嬢と踊らなくてもよろしいのでしょうか?

ざっと見渡しましたが、生徒会の方々のお姿が見えません。
その代わり、その方々の婚約者の皆様…ナタリー様と、バイオレット様と、ジェニファー様は3人で固まっておいでです。

「殿下の他の生徒会の方々のお姿が見えないようですが…」

「あぁ、あの者達は、生徒会の仕事をサボりがちでな。僕はもう尻拭いするのは止めたんだ。彼らは自分達の仕事が終ってなかったからな。まだやっているのではないか?まぁ、舞踏会には参加するだろう。生徒会長から、挨拶もあるしな」

…確かに、バジル男爵令嬢は暇なの?って思う程には、私に絡んで来ておりました。それに、彼女のお話しが本当なら、殿下と市井のカフェでお茶をしたりしていた筈ですもの。仕事が捗っていなかった事は容易に想像出来ますわ。

曲が終わり、次に下位貴族の皆様がフロアへ出てきました。
私と殿下は、フロアから、飲食のスペースへと下がりました。

「アナベル、何か飲む?喉が乾いただろう?」

「はい。では果実水を…」

私が飲み物を取りに行こうとしますと、殿下は、

「僕が取ってくるから、ここの椅子に座って待ってて。動いちゃダメだよ」
と念を押すと、殿下は飲み物を取りに向かいました。
その背中を見送っていると、椅子の背後から、

「よう。殿下と楽しく過ごしてるみたいじゃねぇか」
と耳慣れた声が聞こえました。振り向くと、

「グレイ!貴方今まで何処にいたの?姿が見えないから、てっきり欠席したのかと思っていたわ」

「ん?まぁ、ある人の代りに仕事してたからな。もうすぐ面白い事が始まるみたいだから、裏方はちょっと休憩。見物に来たって訳だ」
とニヤニヤしていますの。

面白い事って何かしら?
それに…裏方って…普通は生徒会の役員の仕事ではなくて?
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