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第57話

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「とりあえず、お前は殿下に何も言うな。もし殿下から何も舞踏会について言われなければ…仕方ない、俺と参加だ。本当に不本意だが、エスコートしてやろう」

「エスコートもだけど…貴方…ダンス出来るの?」

「ダンス?出来る訳ないだろう?する予定もないんだから」

「アンダーソン伯爵家は、事業は手広くやってるし、裕福だし、由緒正しいお家柄なのに…その家の息子の貴方が何故ダンスを踊れないのよ」

「お前…忘れたのか?散々、子どもの頃にお前の相手をさせられただろ?
お前に振り回されて、もう2度とダンスなんて踊らないと俺は誓ったんだ。
特に、お前とのダンスは絶対に御免だ」

「あれぐらいで根をあげるグレイが軟弱なのよ。仕方ないじゃない。グレイとは背丈が釣り合って、練習相手に丁度良かったんだもの」

「いいか?別にダンスの練習に付き合うのは良い。
しかしな、ものには限度ってのがあるんだ。毎日、毎日、何時間も付き合わされてみろ。
足の裏の皮は捲れるし、靴擦れは出来るし、筋肉痛は治る暇がない。
人間はお前みたいに強く出来てないんだよ」

「私も人間よ?あれぐらいでそんな風になる、グレイが特別軟弱なのよ」

「お前は悪魔だ。俺と一緒にするな」

なんて、グレイと言い合っておりましたら、

「アナベル!ここにいたんだね!探したよ」

と殿下が私達の元へ走って来ましたの…しかも大量の護衛と共に。
殿下…全く忍ぶ気持ちはございませんのね?

「殿下!どうされました?今日は生徒会の会議があるのでは?」

息を切らした殿下は、私達の所で立ち止まると、

「なんだか、会長が学園長に呼ばれてね。会議が続けられなくなったんだ。
だから、僕も一緒に買い物に付き合おうと思って」

…殿下と婚約して5年。2人で出掛けた事など1度も御座いません。
なのに、何故今?

私が少し困惑していると、

「ルシウスぅ。待って~」
と後ろからバジル男爵令嬢も走って来ました。

私達3人の元へ追い付くと、バジル男爵令嬢は、

「ねぇ、私も一緒に買い物した~い。それに、市井なら、私の方が詳しいよ?
ほら…ルシウスぅ。2人の邪魔しちゃダメじゃなぁい」
と言って殿下の腕に絡み付きました。
…いえ、腕を取りました…いや…やっぱり絡み付くの方がしっくりきますわね。

自分のお胸を殿下の腕に一生懸命当てておりますわ。お胸…貧相ですものね。それぐらいくっつかなければ、当たりませんわよね。

「じゃ、邪魔などしていない!」
と殿下は否定しますが、

「だってぇ…2人はデートしてるんでしょう?邪魔に決まってるじゃない。
ね?ルシウスには、メリッサが居るでしょう?
じゃあ、お2人さん、私とルシウスはあっちに行くから。お互い、デートを楽しみましょうね! 

と言うと、殿下の腕をぐいぐいと引っ張っていきました。意外と力持ちですわね?

殿下は、

「ア、アナベル!一緒に……」
と何か言いかけましたが、どんどん遠ざかって、最後の言葉は聞こえませんでしたの。
またもや、大量の護衛と共に、殿下とバジル男爵令嬢は去って行きました。

「なんか…嵐みたいだったな」
と言う、グレイの呟きに、珍しく私も同意したのでした。
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