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第50話

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翌日、教室で、殿下は私の所へやって来て、

「アナベル、昨日はすまなかった。折角お見舞いに来てくれたと言うのに」

「いえ。殿下の顔色も良さそうで、安心しました。ところで、あの後バジル男爵令嬢は…?」

「あぁ。私が門の所まで行き話しをした。しかし、王宮の門番に怪我を追わせたり、王宮の窓を破損させようとした事は…罪に問われる。
しかし、私の学友でもあるとの事で、3日間の謹慎となったよ。
貴族としての再教育も兼ねてね。
学園もその間は休みだ」

「そうでしたの。昨日、王宮へそんなに簡単には入れるものではないと、教えて差し上げたのですが…伝わっていなかったようですね…」

「どういう事?」

「ええ。私がお見舞いに行くと知って、一緒に連れて行って欲しいと言われましたが、許可を取っているのは私のみでしたので…お断りしましたの」

「あぁ…そうか。もしメリッサがアナベルと一緒に来たなら、王宮へ入れたかもしれないね」

…え?もしかして…殿下、私にメリッサ様を連れて来て欲しかったのでしょうか?

私ったら、殿下の気持ちも考えず、断ってしまいましたわ……どうしましょう…私、殿下の恋路を邪魔してしまったのかもしれません。

私が思わず俯いてしまうと、

「アナベル?どうしたの?あ、もしかして、僕が今言った事?誤解させ…」

と殿下が何か私に言いかけましたが、その時に、授業の始まるチャイムが鳴って、講師の先生が教室へ入って来たので、殿下はそのままご自分の席にお戻りになりました。

昼食時も、殿下がこちらに歩いて来ておりましたが、私は恋路を邪魔した申し訳なさから、直ぐ様教室を駆けるように出て行き、食堂へ向かいました。多分、グレイは食堂で待ってくれている筈です。

後ろで、殿下の私を呼ぶ声が聞こえたような気がしましたが、私は振り返る事も出来ませんでしたわ。

案の定、食堂の入り口で待つグレイに、

「今日はパンを買って、例の裏庭でたべましょう?」
と言って、パンを買うとグレイを引っ張って裏庭へ急ぎました。だって…殿下に合わせる顔がありませんもの…。




「はぁ…そんな理由で、俺は今日の昼にこんな場所で飯を食うはめになったんだな」

「こんな場所って…貴方の隠れ家じゃない」
と言っても、家はないけれど。

大きな木と、古びたベンチがあるだけの場所。たまに野良猫が日向ぼっこを楽しんでいるぐらいよね。雑草も伸び放題だし。

「最近はお前と食堂で食べるようになったから、温かい物が食べたいんだよ。なぁ、今からでも良いから、食堂行こうぜ」

そんなグレイの愚痴を右から左へ受け流しながら、昼食を終えました。


しかし、放課後はそのようにはいきません。

「アナベル、今日は王太子妃教育の日だろ?」
殿下は私の机の前に立っております。
さすがにその横をすり抜ける事は不可能というもの。しかし、私には殿下に告げなければならない事が御座いました。

「殿下。昨日のお見舞いの時にお話ししようと思っておりましたが…私、王太子妃教育の9割方が終了いたしましたので、これからは週に1度程度になる事が決まりましたの。なので、今日は王宮へは参りません。次は5日後になります」

「は?そんなの聞いてないよ!じゃあお茶会は?お茶会も週に1回?」

「ええ。私が王宮へ参りますのは、その頻度になりますので…お茶会もそのようになりますわね」

寂しいですけれど…仕方ないですわ。
そう私が思っていると、

「そうか…じゃあ、僕が公爵家に行くよ。それなら問題ないよね?」

と笑顔の殿下が眩しいですわ。…殿下…そんなにお茶会が好きだったのでしょうか?
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