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第44話

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「アナベルとこうしてお茶を飲むのは久しぶりだね」

今は王太子妃教育の後の定例のお茶会。
…殿下が生徒会に入られてからというもの、とてもお忙しそうでしたしね。
そうこうしている間に試験期間に入ってしまったので…かれこれ3週間ぶりぐらいでしょうか?

「そうですわね。殿下も生徒会がお忙しそうで。体は大丈夫ですか?王太子教育と学園のお勉強、それに生徒会活動と、大変そうですが」

「それは…なんとかやってるよ。生徒会も僕1人でやっている訳じゃないしね」

…この3週間で、殿下もバジル男爵令嬢と、ずいぶんと親密になったご様子。

しかし…恋人になる為には、あの生徒会役員の3人が邪魔ですわよね…。
殿下、もう少しお待ちくださいませ。
このアナベルがあの3人をしっかり排除してみせますわ!

「アナベル…何故ガッツポーズを?」

あら…私とした事が。心の中でガッツポーズをしたつもりが、ついつい握りこぶしを握っていたようですわ…オホホホ。

「あ、いえ…これには別に意味は御座いませんの」

「そうか。…で、アナベルはどう?最近は」

「そうですわね…苦手だった刺繍も随分と上達いたしました。
しかし、まだまだ自分の中で納得出来る作品には仕上げられておりませんが…」

今、私は壁に飾るタペストリーに挑戦中なのですけど、刺繍の先生からは、
『職人ではないのですから、そんな大作を作らなくても、王太子妃として少しも困りませんよ』
と言われてしまいましたの。
しかし、私はもっと高みを目指さなければ、殿下の横に並び立つに相応しい人間とは言えませんもの。日々努力ですわ。

「なら、やっと僕の為に刺繍を出来るようになったんじゃないのかい?ずっと『まだダメだ、まだダメだ』と言って、全然、僕にプレゼントしてくれないじゃないか」

「殿下に差し上げられるような物はまだまだです。もう少し精進致しませんと」

「まだダメなのかい?随分と待っているんだが…そうか…なら仕方ない」

殿下が使うハンカチへの刺繍なんて、私の腕ではまだまだですの。
刺繍の先生からは、
『私より上手いのに、まだ殿下に差し上げる事は出来ないのですか?』
と呆れられておりますが…きっとお世辞に違いないと思っておりますの。自惚れてはいけませんわ。

「ねぇ…アナベル。ちょっと聞きたい事があったんだけど…」

殿下が何やら改まっております。… もしかして、バジル男爵令嬢の事でしょうか?

「はい。何なりと」

「アンダーソン伯爵令息殿の事だけど…2人は…」

「あぁ。殿下にだけは申し上げておきますわね。実は彼は私の恋人ですの」

…で、殿下!カップから紅茶がドボドボと零れておりますわ!しっかりとお持ち下さいませ!
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