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第36話
しおりを挟む「プリン食べ損ねたわ」
「プリンより大事なものがあるんだ、我慢しろよ」
「今の私にはプリンより大事なものが何かわからないのだけど?」
「お前…殿下が絡むと、本当にポンコツだな。いいか…殿下はお前を……いや、これは後のお楽しみだな。
まぁ、いい。今はとにかくお前は俺と仲良くしておけば良いんだよ」
「仲良く?グレイと?昔みたいに?」
「いいか、言っとくけど、あれは仲良くじゃなくて、いたぶってただけだ、兄さんと一緒に。とりあえず、恋人らしくしとけよ。折角勉強したんだろ?恋人について」
「もちろん。ねぇ、ちょっと手を貸して?」
「ん?こうか?」
と言ってグレイの差し出した左手に私の右手を指を絡めるように繋いで、
「これが『恋人繋ぎ』よ。ね、親密そうに見えるでしょう?」
「そうか?普通に手を繋いだのと、距離はかわらないし、なんなら腕を組んだ方が、2人の距離が縮まらないか?」
「だって…小説に書いてあったもの。あ、そう言えば、この前私に苦情を言いに来たご令嬢が、小説を置いていったの。これで勉強しろって」
「何を?」
「『悪役令嬢』ですって。悪役令嬢とは何かを学べって言われたわ」
「『悪役令嬢』って何だよ」
「知らないから、勉強するんでしょう?今日の放課後、私、それを勉強するわ」
「まぁ…お前は試験の心配はないからな」
「……でも、殿下よりも点を取らないように調整してるのよ?」
私はとても小さな声で、グレイに告げました。自然と2人の顔が近づきます。
「そうなのか?…お前も男を立てる為に色々と大変なんだな」
「王妃陛下に言われたの。『必ず一歩下がって、殿下をお支えするように』って」
「ふーん。なんかつまんねぇな。王太子妃なんて。俺は頼まれても嫌だけどな」
「私だって、ルシウス殿下が王太子でなければ、絶対に御免だわ」
私達はここが中庭のベンチで、教室から丸見えな事とか、たくさんの生徒が行き交っている事とか、その全てをこの時には、すっかり忘れておりましたの。
午後の授業の後、殿下が私の側までやって来て、
「今日、本当に、あのアンダーソン伯爵令息と勉強をするの?」
とわざわざ確認に来られました。
「ええ。そのつもりですわ」
「そうか…あまり遅くなる前に、屋敷に戻るんだよ?」
「は、はい。もちろんですわ。グレイの勉強の進み具合にもよりますけど」
「そういえば…君たちは名前を呼びあっているね。しかも、向こうは…その…『ベル』と」
「はい。子どもの頃からの呼び名ですので…今更変えたりはしておりませんの」
「…そうか…子どもの頃か。幼馴染みでもあるのだな」
「そうですわね。でも、殿下と婚約を結んだ時に、私は王都に出てきたので、それからは、あまり会えておりませんでしたけど…」
「ふーん…そうか。アナベルが10歳で私の婚約者になったのだから…5年と10年…くそっ!負けてるじゃないか」
…『くそっ!』?殿下の口からそのような汚い言葉が出るなんて……あのバジル男爵令嬢の影響かしら?嫌だわ。それに…殿下って何かと勝負をしているの?…謎だわ。
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