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第16話

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「お久しぶりでございますね、アナベル様」

このタウンハウスを任されている家令のレナードに私は迎えられました。

「また、突然でごめんなさいね。ねぇ、グレイは居る?」

「今日は1日屋敷でお休みでしたので、いらっしゃいます。お声をかけて参りますので、暫し応接室にてお待ち下さい」

私はメイドに応接室への案内を受けて、お茶を飲みながら、グレイを待ちました。

やがて、

「何で家にまでくるんだよ」
と仏頂面のグレイが応接室に現れました。
あら、結構元気そうですわね。

「お見舞いに来たのよ?蕁麻疹はどう?応接室にまで降りて来れるって事は、良くなったのかしら?」

「まぁな。今日は大事を取って学園は休んだが、明日からは行ける。さぁ、もう用は済んだろ?帰れよ」

「折角恋人がお見舞いに来たのに、そんな言い方はないんじゃない?」
私の言葉に控えていたメイドがぎょっと目を剥いてしまいましたわ。

「おい…誤解されるような言い方すんなよ。それに、恋人のふりをするのは、殿下の前だけでいいだろ?」

「あ、そっか…それもそうよね。来て損しちゃったわ」

「損をしたのは俺だ。折角、お前の顔を 見なくてすむ筈だったのにな」

「あ、そうそう。それはそうと、お見舞いを持って来たわ」

私はそう言ってリボンのかかった包みを差し出しました。

「ヘビやカエルじゃないだろうな?」

「いつの話をしてるのよ。大丈夫、生モノではないから」

訝しげな顔でリボンをほどいて包みを開けたグレイは、

「何なんだよ…これは」

折角買って来たのに、不服そうなのは何故かしら?


「何って…下着よ?この前、赤いの履いていたでしょう?あれは、貴方に似合わなかったもの」

「なんか、あん時にもそう言ってたな。でも、…これが俺に似合うとでも?」

といって、グレイが両手の親指と人差し指とで摘まんで広げた下着を自分の目の前に持って来て、

「これ…本当に男性用の下着か?」
とマジマジと見ていますけど…間違いなく男性用ですわよ?

「そうよ。お店の方もそう言ってたらしいわよ?」

「らしい…とは?」

「私は買いに行く暇がなかったから、メリナに買いに行かせたの。でも、私のリクエスト通りだわ」

メリナは私専属の侍女ですの。ただ、その下着を買いに行って帰って来た時には、
『もう絶対にお嬢様のお願いでもグレイ様の下着は買いに行きませんからね!』と顔を真っ赤にして、宣言していたけど…どうしてかしらね?

「お前…これをメリナに買いに行かせたのか?」

「そうよ。ちゃんと絵にかいて『こんなの買って来て』ってお願いしたの。その絵を見てメリナは絶句していたけど」

「お前…メリナが可哀想だろ。それに、俺はこんなのを履く趣味はない。メリナに俺の趣味だと誤解されるのはごめんだからな、ちゃんとお前の趣味だって訂正しとけよ?」

「どうして?何が不満なの?」

「色はいいよ、色は。黒と、グレーでシックだしな。だがな、なんで大事な所が透けてるんだ?それに横はほぼ紐だぞ?これじゃあ、大事なモンが収まらねぇだろうが」

「グレイ…見栄を張るのはやめたら?貴方のなら、その布面積で十分でしょう?」

「お前!失礼な事を言うな!!」

真っ赤になって怒っても…面白いだけよ?
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