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第166話
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「じゃあそのメイドにヴァローネ伯爵への伝言を頼んだのね」
「ああ」
と言うテリーの答えに、私は控えていた護衛に合図を送る。
そのメイドの証言はヴァローネ伯爵が黒幕な事の証拠の1つとなり得るだろう。護衛が直ぐ様屋敷へと向かう筈だ。
すると、ヴァローネ伯爵は、
「お前!!誰にも言うなと言ったじゃないか!女なんかにうつつを抜かして、ベラベラ喋りおって!!」
とテリーに怒鳴るも、自分の今の発言が非常に不味いものだと気づいた様で慌てて口を閉じた。
「あら?さっきはテリーの事を『知らない』と言っていたのに……不思議ね」
と私が微笑めば、ヴァローネ伯爵は目を逸らした。
「テリー、それで昨日はヴァローネ伯爵に何と言われたの?」
「奥様を『消せ』と」
とテリーが言った瞬間に、ヴァローネ伯爵は、
「黙れ!!!嘘つき!!」
と叫んだ。
「『消せ』ね。具体的には?」
「馬車の車輪を壊したのは伯爵だ。なんとかあそこに足止めして、寝てる間に殺せと言われた。だけど……寮には泊まる事にならずに焦ったよ。荒業だと思ったが、火をつけた」
「あの紅茶には何か入ってた?」
「……睡眠薬。昔、母親が飲んでいたやつ」
やはり……護衛が放火に気づかない事を疑問に思っていた。護衛は必ず毒見をする。ソニアなら、その後に皆にお茶を振る舞っていてもおかしくない。あの時、紅茶に違和感を持ったのに……私にも落ち度はあった。そして今のテリーの言い回しが気になる。
「お母様は……亡くなったの?」
と私がテリーに尋ねると、彼は私を睨みつけて、
「あぁ!誰も助けてくれなかった!親戚も!誰も!!」
と涙を流した。その叫びはとても悲しげで、怒りに満ちていた。私の胸が軋む。……ヴァローネ伯爵領が飢饉に陥っていた事を私は知っていた。それをヴァローネ伯爵が放っていた事も。
私が俯きかけると、
「ステラ様のせいではありません。天災は誰のせいでもありません。しかしそれを見越して対策をして来なかったのは領主……ヴァローネ伯爵の責任です。そしてヴァローネ伯爵領の危機的状況を知っても尚、手を差し伸べなかったのは王家です。それにはきっとちゃんとした理由がある。……そうですよね?ヴァローネ伯爵?」
とテオは伯爵へと問いかけた。ヴァローネ伯爵は唇を噛み締めて俯いたが、それについて答えるつもりはないらしい。
「テオ、何か知ってるの?」
「はい。実はギルバートさんの御子息……長男であるセルシオさんにアーロンさんが確認してくれました。さっきの『王家が手を差し伸べなかった』には語弊があります。正しくは『王家は支援はしなかったが、ヴァローネ伯爵領からの納税を免除した』です。お金を直接渡さなかったのは、ヴァローネ伯爵に信用がなかったからでしょう。それを踏まえて王家は納税を免除したんです。飢饉を脱し、領民が普通の暮らしを取り戻すまで」
と言うテオの言葉に、今度はテリーが、
「嘘だ!!!俺達は……苦しいのに……税金を納めさせられていた。商会の給金が減ったのも、そのせいだ」
と泣きながら叫ぶ。ヴァローネ伯爵はますますきつく唇を噛んだ。
「ああ」
と言うテリーの答えに、私は控えていた護衛に合図を送る。
そのメイドの証言はヴァローネ伯爵が黒幕な事の証拠の1つとなり得るだろう。護衛が直ぐ様屋敷へと向かう筈だ。
すると、ヴァローネ伯爵は、
「お前!!誰にも言うなと言ったじゃないか!女なんかにうつつを抜かして、ベラベラ喋りおって!!」
とテリーに怒鳴るも、自分の今の発言が非常に不味いものだと気づいた様で慌てて口を閉じた。
「あら?さっきはテリーの事を『知らない』と言っていたのに……不思議ね」
と私が微笑めば、ヴァローネ伯爵は目を逸らした。
「テリー、それで昨日はヴァローネ伯爵に何と言われたの?」
「奥様を『消せ』と」
とテリーが言った瞬間に、ヴァローネ伯爵は、
「黙れ!!!嘘つき!!」
と叫んだ。
「『消せ』ね。具体的には?」
「馬車の車輪を壊したのは伯爵だ。なんとかあそこに足止めして、寝てる間に殺せと言われた。だけど……寮には泊まる事にならずに焦ったよ。荒業だと思ったが、火をつけた」
「あの紅茶には何か入ってた?」
「……睡眠薬。昔、母親が飲んでいたやつ」
やはり……護衛が放火に気づかない事を疑問に思っていた。護衛は必ず毒見をする。ソニアなら、その後に皆にお茶を振る舞っていてもおかしくない。あの時、紅茶に違和感を持ったのに……私にも落ち度はあった。そして今のテリーの言い回しが気になる。
「お母様は……亡くなったの?」
と私がテリーに尋ねると、彼は私を睨みつけて、
「あぁ!誰も助けてくれなかった!親戚も!誰も!!」
と涙を流した。その叫びはとても悲しげで、怒りに満ちていた。私の胸が軋む。……ヴァローネ伯爵領が飢饉に陥っていた事を私は知っていた。それをヴァローネ伯爵が放っていた事も。
私が俯きかけると、
「ステラ様のせいではありません。天災は誰のせいでもありません。しかしそれを見越して対策をして来なかったのは領主……ヴァローネ伯爵の責任です。そしてヴァローネ伯爵領の危機的状況を知っても尚、手を差し伸べなかったのは王家です。それにはきっとちゃんとした理由がある。……そうですよね?ヴァローネ伯爵?」
とテオは伯爵へと問いかけた。ヴァローネ伯爵は唇を噛み締めて俯いたが、それについて答えるつもりはないらしい。
「テオ、何か知ってるの?」
「はい。実はギルバートさんの御子息……長男であるセルシオさんにアーロンさんが確認してくれました。さっきの『王家が手を差し伸べなかった』には語弊があります。正しくは『王家は支援はしなかったが、ヴァローネ伯爵領からの納税を免除した』です。お金を直接渡さなかったのは、ヴァローネ伯爵に信用がなかったからでしょう。それを踏まえて王家は納税を免除したんです。飢饉を脱し、領民が普通の暮らしを取り戻すまで」
と言うテオの言葉に、今度はテリーが、
「嘘だ!!!俺達は……苦しいのに……税金を納めさせられていた。商会の給金が減ったのも、そのせいだ」
と泣きながら叫ぶ。ヴァローネ伯爵はますますきつく唇を噛んだ。
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