お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
157 / 189

第157話

しおりを挟む

「…………故意って事?」
私も小声で話す為に少しテオの方へ身を乗り出した。

「証拠はこれからですが恐らく。とにかく此処ではない何処かでお話しますね。まず……」

とテオが話し始めた時、ノックの音が聞こえ、私達は話すのを止めた。


「奥様!ご無事で何よりです!テオドール様も」
とギルバートが顔を見せた。


「ギルバートさん、どうでしたか?」
とテオが尋ねる。

「ビルはずっと家に居ました……というより寝てましたよ、私が起こすまで。彼ではありません」
と話すギルバートに、私は、

「話が聞けないのはもどかしいわね」
とため息をついた。

するとまたノックの音が聞こえ、今度はソニアが顔を覗かせた。

「護衛の手当ても終わりました。火も鎮火しましたが、家の殆どが焼け落ちてしまいましたね」
と言うソニアに、

「他の人達に怪我はない?消火活動をしてくれた者とか」
と私が尋ねると、

「殆どの者は無事です。最前線で消火していたテリーが手に少し火傷を負ったぐらいですね」
と言うソニアに、ギルバートとテオが顔を見合わせた。

その様子に私は、もしかすると私は殺されかけたのかもしれないと思い至った。

結局、夜が明けるまで寮のメグの部屋を借りて休む事になったが、流石に眠れそうにない。
テオは私の部屋を見張ると言っていたので、私はテオを部屋に招き入れた。

「眠れませんか?」
テオは寝台の横の椅子に腰掛け私にそう尋ねた。

「うん……。ここまでの悪意を向けられた事は初めてだから。ちょっとね」

はっきりと殺意を向けられたのは初めてだ。
すると、テオは

「俺……私がここに着いて直ぐ、火の手が上がる家の中にステラ様が居ると聞いて……血の気が失せました。護衛達が家の中に入ろうとしていましたが、火の回りが早くて、家の入口付近が崩れて……。水を汲んで来るのにも距離があって。家の裏に回ったら大きな木があったんで、気づいたら夢中で登っていました」

「テオが木登りが得意なんて知らなかったわ」

「店が終わっても家に帰るのが嫌で、そんな時には木に登って、日が沈むのを見てたんです」

子どもの頃の話をするテオはいつも少し寂しそうだ。

「そうだ。私、まだテオにお礼を言ってなかったわね。私を助けてくれてありがとう。貴方のお陰でこうして元気だわ」
と私が微笑むと、テオは

「貴女を失う事にならず本当に良かった」
と私の包帯をしていない方の手をそっと握る。
その手は少しだけ震えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...