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127話〈最終話〉
しおりを挟む「こうして彼女は王子様と幸せに暮らしました」
私がその本の最後の一文を読み終わると、大人しく物語に耳を傾けていたリーファは、
「わたしも王子さまとけっこんできる?」
と寝台の横で本を閉じた私に質問した。
陛下から『子どもの頃は皆、自分の様に他人の気持ちを汲み取る事が出来るのだと勘違いしていて、言葉を不必要に考えがちだった。そのせいか俺は言葉を喋り始めるのが遅かったんだ』と聞いていた為、私は積極的に二人に話しかけた。こうして寝る前に本を読む事も、その一環だ。四歳になったリーファは、お伽噺が好きだ。
「そうねぇ……」
リーファは元々お姫様……その可能性は高いかもしれない。現にカルガナル王国のジャニス様が産んだユリウス王太子殿下との縁談話が持ち上がっているが、陛下が納得しておらず、保留のままだ。
それに、リーファが気に入っている物語の主人公は市井に住む心が綺麗な女の子だ。
王子様に見初められ困難を乗り越えながら結婚するお話だ。リーファとはちょっと立場が違う。
「リーファは王子様と結婚したいの?」
私が逆に尋ねると、リーファは少し考えてから、
「わたしはお兄さまと結婚したい!」
と元気に答えた。
「リーファ、それは難しいわね。ザックは確かに王子様だけど、兄妹では結婚出来ないのよ?」
と私が苦笑すれば、リーファは少し唇を尖らせて、
「……じゃあ、お父さまと結婚する」
と答えた。……すると、
「お父様はザックの次か?それも渋々って感じだな」
と私の背後から陛下の声がした。
「お父さま!!」
と言って、リーファは手を伸ばす。陛下はそんなリーファを愛おしそうに見つめると、彼女を抱き上げた。
「もう……折角眠りにつくところでしたのに」
と私が不満を口にすれば。
「明日の準備で、今日は一度もリーファに会えなかったんだ。今を逃すと明日までまたなきゃならんだろ?」
と陛下は笑った。
明日は六歳になったアイザックの立太子式だ。アイザックは自分の能力にいち早く勘づいたが、その力を嘆く事も忌まわしく思うこともなく、すくすくと成長した。周りからも『王太子に相応しい』と太鼓判を押される程、彼は優秀だ。
それも全て陛下が全力でアイザックに向き合ってくれたお陰だろう。
「お兄さまは?」
と尋ねるリーファに陛下は、
「直ぐにアイザックに興味が向くんだからな……」
と面白くなさそうな表情を浮かべそう呟いた。そして、
「アイザックは然程緊張もせず、リハーサルを終えていたよ。明日が早いから、もう部屋で休んでいる事だろう。リーファも明日は綺麗なドレスを着てお兄様を祝ってあげような」
と抱っこをしているリーファの頭を撫でた。
リーファはそれを聞いて、
「きれいなドレス?!お嫁さんみたいな?」
と目を輝かせた。
「ふふふ。そうね、リーファが好きな薄い桃色のドレスよ。アイザックのタイと同じ色にしたわ」
と私が言えば、リーファはますます嬉しそうに笑った。そしてそれに反比例するかの様に陛下は渋い顔をした。
「さぁ、リーファも明日は早い。もう寝るんだぞ」
と起こした張本人である陛下はリーファを寝台に下ろして寝かせた。
「おやすみなさい」
「「おやすみ、リーファ」」
私達はリーファの部屋を二人して後にした。
陛下は私を優しくエスコートするかの様に腕を差し出す。私もそれにそっと手を置いた。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
私達の寝室に戻りながら、私がそう言うと、
「お腹が大きくなると、足元が見えにくいと言っていただろう?躓いたりしたら大変だ」
あと二ヶ月もすれば産み月となる私に陛下はやはり過保護だった。
「もう三人目ですから」
「油断してはダメだ。お産で亡くなる女性は存在する。お前が居なくなったら、俺は生きていけない」
と言う陛下に思わず苦笑してしまった。
「お伽噺を読んでいていつも思うのですが……身分差のある結婚は後々苦労しそうだなって……」
と私は厳しかった王妃教育の日々を思い出しながらそう言った。
「お前は俺と結婚して苦労したよな。ほぼ平民として暮らしていたのだから」
「そうですねぇ。でも苦労も楽しかったです。愛している人の側に居る事、それが何より自分の原動力になるのだと、実感しました」
「その愛する人の中に俺は含まれているよな?」
と少し意地悪そうに陛下に尋ねられ、
「もちろん。陛下もアイザックも、リーファも……それにこのお腹にいる子も。全てが私の愛する人達です」
と私は微笑んだ。
陛下はふと立ち止まり、私の大きくなったお腹に、
「いいか。お父様はお母様が大好きだから、お母様を苦しめる全ての事から守りたいんだ。だから、お前もお母様を困らせる事なく、安産で生まれてくるんだぞ?」
と話しかける。すると『ポコン』と赤ちゃんが大きくお腹を蹴った。それはお腹の形が少し変わる程で、陛下も目を丸くする。
私は笑いながら
「分かったって言ってるみたいですね。やはりこの子は貴方の子どもで間違いありません」
と言う。そんな私に陛下はそっと口づけて、
「当たり前だ」
といつもの眩しい笑顔を私に見せた。
ーFinー
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