126 / 127
126話
しおりを挟む
カルガナル王国、サーレム殿下は我が国を見て
「国民の笑顔が増えたな」
と言ったそうだ。
「お疲れ様でした。今回は全くお手伝い出来ず申し訳ありませんでした」
「殿下もお前に会えない事は残念がっていたが、子が産まれた事について、祝福していたよ。祝いを貰った。首が凝りそうな程大きな宝石の付いた首飾りだ。王女だと聞いて直ぐに作らせたらしいが、時間のない中であの見事な細工の物を作ったのだとすると、物凄い加工技術だ。カルガナル王国……やはり侮れん」
「リーファが立派な淑女になった暁には、その首飾りが彼女を一層輝かせてくれる事でしょう。心遣いが有り難いですね。で、同盟については如何でした?」
「問題なく締結した。これからは同盟国だ。政治的にも軍事的にも同盟を結んだので、これから二国間の結びつきはさらに強固なものになるだろう」
「そうですか!そう聞いて安心しました」
私はリーファを抱きながらロッキングチェアに腰掛けている。リーファは心地よい揺れの中で、既に夢の中だ。陛下はその顔を覗き込みながら、
「ジャニス殿も妊娠中だそうだ。今回殿下とは腹を割って話す事が出来たのだが、彼が正妃を持って居ない理由がわかったよ」
陛下は私の側に椅子を持って来て自分も腰掛けた。
「ではあの時の『ルール違反』の意味を?」
私が首を傾げると、
「ああ。ずっと抱いていると腕が疲れるだろう?俺が代わりに抱こう」
と陛下は私に腕を伸ばす。私は眠っているリーファをそっと陛下に手渡した。
陛下はリーファに目を細めながら、
「殿下の母君は側妃だと言っていただろう?殿下に姉妹は居ても、兄弟は居ない。妃陛下に居るのは王女二人。これは殿下の異母姉と異母妹にあたる。カルガナル王族は何故か男児が生まれにくい体質なのだそうだ。殿下は待望の王子だったと言うわけだ」
「ですから御側妃がお生みになった殿下が王太子となられたのですね」
「ああ。だが、陛下の横に並び立つのはどうしても正妃である妃陛下だ。随分と殿下の母君は悔しい思いをしていたらしい」
「確かに殿下が『自分の母は側妃だったから表に立つことはあまりなかった』と仰っておりました」
陛下はリーファのお尻を軽くポンポンとしながら、私の話に頷いた。
「で……だ。殿下は側室の中で王太子になる王子を産んだ者を正妃にする……そう決めたそうだ」
「今のところ王子は生まれておりませんものね」
カルガナル王国と国交を結んで約一年。随分とあの国についてもわかっている事が増えた。王族の構成については私達も把握している。
「そうだな。王女は十五人も居るが」
と陛下は肩を竦める。私もそれを聞いた時には度肝を抜かれた。
遠い東方の国にもハレムを持つ王族が居て、王子の後継問題が血生臭い事件に発展している事を聞いた事がある。カルガナルは王女ばかりだから、今のところは問題が起きていないのだろうが……それでも十五人。私には想像も出来ない。
「ジャニス様は初めての妊娠となるのですね」
「彼女も第一側室としてハレムを管理する立場にあったが、子を産んでいない事で、随分と肩身の狭い思いをしていたらしい。……幼馴染という事もあってか、殿下がジャニス殿の話をする時は穏やかそうに笑っていたよ」
「ジャニス様は……きっと殿下を愛していらっしゃるのでしょう。だから、私を正妃にと殿下が言った時にあのような悲しそうな表情を。……何だか申し訳ない事をしました」
「あの男がお前に勝手に惚れたのだ。お前のせいじゃない。だからあの時『ルール違反だ』と言っていたのだろう」
「それは理解出来ました。他のご側室を私が知らないからでしょうが……ジャニス様の想いが殿下に届くと良いな……と思います」
「そうだな。だが俺にはハレムなどさっぱり理解出来んよ。俺にとって愛する女性はただ一人。その心をたくさんの者に分け与える事など、不可能だ」
と言って私に優しく微笑んだ。
「国民の笑顔が増えたな」
と言ったそうだ。
「お疲れ様でした。今回は全くお手伝い出来ず申し訳ありませんでした」
「殿下もお前に会えない事は残念がっていたが、子が産まれた事について、祝福していたよ。祝いを貰った。首が凝りそうな程大きな宝石の付いた首飾りだ。王女だと聞いて直ぐに作らせたらしいが、時間のない中であの見事な細工の物を作ったのだとすると、物凄い加工技術だ。カルガナル王国……やはり侮れん」
「リーファが立派な淑女になった暁には、その首飾りが彼女を一層輝かせてくれる事でしょう。心遣いが有り難いですね。で、同盟については如何でした?」
「問題なく締結した。これからは同盟国だ。政治的にも軍事的にも同盟を結んだので、これから二国間の結びつきはさらに強固なものになるだろう」
「そうですか!そう聞いて安心しました」
私はリーファを抱きながらロッキングチェアに腰掛けている。リーファは心地よい揺れの中で、既に夢の中だ。陛下はその顔を覗き込みながら、
「ジャニス殿も妊娠中だそうだ。今回殿下とは腹を割って話す事が出来たのだが、彼が正妃を持って居ない理由がわかったよ」
陛下は私の側に椅子を持って来て自分も腰掛けた。
「ではあの時の『ルール違反』の意味を?」
私が首を傾げると、
「ああ。ずっと抱いていると腕が疲れるだろう?俺が代わりに抱こう」
と陛下は私に腕を伸ばす。私は眠っているリーファをそっと陛下に手渡した。
陛下はリーファに目を細めながら、
「殿下の母君は側妃だと言っていただろう?殿下に姉妹は居ても、兄弟は居ない。妃陛下に居るのは王女二人。これは殿下の異母姉と異母妹にあたる。カルガナル王族は何故か男児が生まれにくい体質なのだそうだ。殿下は待望の王子だったと言うわけだ」
「ですから御側妃がお生みになった殿下が王太子となられたのですね」
「ああ。だが、陛下の横に並び立つのはどうしても正妃である妃陛下だ。随分と殿下の母君は悔しい思いをしていたらしい」
「確かに殿下が『自分の母は側妃だったから表に立つことはあまりなかった』と仰っておりました」
陛下はリーファのお尻を軽くポンポンとしながら、私の話に頷いた。
「で……だ。殿下は側室の中で王太子になる王子を産んだ者を正妃にする……そう決めたそうだ」
「今のところ王子は生まれておりませんものね」
カルガナル王国と国交を結んで約一年。随分とあの国についてもわかっている事が増えた。王族の構成については私達も把握している。
「そうだな。王女は十五人も居るが」
と陛下は肩を竦める。私もそれを聞いた時には度肝を抜かれた。
遠い東方の国にもハレムを持つ王族が居て、王子の後継問題が血生臭い事件に発展している事を聞いた事がある。カルガナルは王女ばかりだから、今のところは問題が起きていないのだろうが……それでも十五人。私には想像も出来ない。
「ジャニス様は初めての妊娠となるのですね」
「彼女も第一側室としてハレムを管理する立場にあったが、子を産んでいない事で、随分と肩身の狭い思いをしていたらしい。……幼馴染という事もあってか、殿下がジャニス殿の話をする時は穏やかそうに笑っていたよ」
「ジャニス様は……きっと殿下を愛していらっしゃるのでしょう。だから、私を正妃にと殿下が言った時にあのような悲しそうな表情を。……何だか申し訳ない事をしました」
「あの男がお前に勝手に惚れたのだ。お前のせいじゃない。だからあの時『ルール違反だ』と言っていたのだろう」
「それは理解出来ました。他のご側室を私が知らないからでしょうが……ジャニス様の想いが殿下に届くと良いな……と思います」
「そうだな。だが俺にはハレムなどさっぱり理解出来んよ。俺にとって愛する女性はただ一人。その心をたくさんの者に分け与える事など、不可能だ」
と言って私に優しく微笑んだ。
1,267
お気に入りに追加
3,487
あなたにおすすめの小説

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる