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124話
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お腹がどんどんと大きくなって、もう少しで産み月という頃、私はやっと王妃教育を終えた。
「これで私が教える事は全て終了です。しかし、王族というのは、日々勉強。これからも精進なさって下さい」
とサイラス女史は自身の眼鏡をクイッと上げた。
「右も左もわからぬ私をご指導下さりありがとうございました。私は決して出来の良い生徒ではありませんでしたが、何とか王妃として陛下の横に並び立つ事が出来ているのも、根気よくお付き合い下さいましたサイラス女史のお陰です」
と私が微笑めば、
「妃陛下の頑張りが全てです。最初はどうなる事かと思いましたけど」
とサイラス女史は少しだけ口角を上げた。……笑っているのかしら?笑顔なんて、初めて見たかもしれない。
「先日、王妃教育が終了したと聞いた」
「はい。やっとですが」
と私が苦笑すれば、
「これは内緒にしておけと言われたんだがな、王族の教育というのは、本来なら何年もかかるものなんだぞ?」
と陛下はいたずらっぽく笑った。
庭を陛下と腕を組んでゆっくりと散歩していた私は、陛下のその言葉に思わず立ち止まる。
「え?そうなのですか??私はてっきり自分の出来が悪く、人より時間がかかっているものだとばかり……」
「お前は決して出来が悪かった訳じゃない。だが、褒めると調子に乗るからとサイラス女史が」
「『根性だけはある』と言われたので、てっきりダメダメな生徒だとばかり思っていました。すっかり騙されましたわ」
と私が口を尖らせば、陛下は
「まぁ、サイラス女史流のやり方なのだろう」
と笑った。
「でも厳しくしていただいて正解だったと思います。私、こう見えても負けず嫌いなので」
と言いながら、私と陛下はまたゆっくりと歩き始めた。
庭のガゼボにたどり着くと、マーサが待っていた。
「さぁ、さぁ少し休憩して下さいませ」
と果実水をグラスに注ぐ。
私と陛下は椅子に座りそれを飲み干した。
「さて、お前が喜ぶものを持って来た」
陛下が懐から封筒を差し出す。
「これは……ローランドからね!」
と私は差出人の名前を見て、声を上げた。
「元気にやっている様だ」
という陛下は穏やかに微笑む。私は早速手紙を開いた。
「ふふふ。毎日野山を駆け回っているって書いてあるわ。随分と体が丈夫になったのね」
「ローランドに必要だったのは、勉強ではなく日の光を十分に浴びて体を動かす事だったのかもしれないな。ローランドを病気がちにしたのは他でもない、この環境だったのかもしれん」
と陛下は王宮を眺めた。
「二人とも仲良くやっている様ですね。……良かった」
「ラッセルもスーザンもローランドをとても可愛がってくれている様だ。そう言えば友達が出来たとも書いてあったな」
「まぁ、本当ですね。手紙からも嬉しさが伝わってくる様です」
「今まで友と呼べる存在など居なかったからな。……ローランドをラッセルに預けて良かったよ」
「確かに。ローランドはあまり王の座に興味はない様でしたから、こうして子どもらしく過ごしている様子を見ると、あの時のローランドの決断は正しかったのだと思えます」
「俺だって別に王の座に興味はなかったけどな」
という陛下の手を私はそっと握る。
「今、陛下は陛下にしか出来ない事をやろうとしています。それだけでも陛下が国王になった意味があると思いますよ」
「そうだな。この国を大きく変えていきたい。そう強く思う様になったのは、お前と、アイザックの存在が大きい。アイザックに残すこの国を、平和で豊かな国にしなければな」
と陛下はもう一方の手で私の手を包み込む様に握った。そして、
「苦労をかけるかもしれないが、これからも俺と共に歩んでくれ」
と私に言った。
「もちろんです。ずっと側におります」
と言った私の手に力が籠もる。
「痛てて、どうした?そんな強く握って」
と不思議そうにする陛下に、
「えっと………陣痛が始まったかもしれません」
と私は告げた。
「これで私が教える事は全て終了です。しかし、王族というのは、日々勉強。これからも精進なさって下さい」
とサイラス女史は自身の眼鏡をクイッと上げた。
「右も左もわからぬ私をご指導下さりありがとうございました。私は決して出来の良い生徒ではありませんでしたが、何とか王妃として陛下の横に並び立つ事が出来ているのも、根気よくお付き合い下さいましたサイラス女史のお陰です」
と私が微笑めば、
「妃陛下の頑張りが全てです。最初はどうなる事かと思いましたけど」
とサイラス女史は少しだけ口角を上げた。……笑っているのかしら?笑顔なんて、初めて見たかもしれない。
「先日、王妃教育が終了したと聞いた」
「はい。やっとですが」
と私が苦笑すれば、
「これは内緒にしておけと言われたんだがな、王族の教育というのは、本来なら何年もかかるものなんだぞ?」
と陛下はいたずらっぽく笑った。
庭を陛下と腕を組んでゆっくりと散歩していた私は、陛下のその言葉に思わず立ち止まる。
「え?そうなのですか??私はてっきり自分の出来が悪く、人より時間がかかっているものだとばかり……」
「お前は決して出来が悪かった訳じゃない。だが、褒めると調子に乗るからとサイラス女史が」
「『根性だけはある』と言われたので、てっきりダメダメな生徒だとばかり思っていました。すっかり騙されましたわ」
と私が口を尖らせば、陛下は
「まぁ、サイラス女史流のやり方なのだろう」
と笑った。
「でも厳しくしていただいて正解だったと思います。私、こう見えても負けず嫌いなので」
と言いながら、私と陛下はまたゆっくりと歩き始めた。
庭のガゼボにたどり着くと、マーサが待っていた。
「さぁ、さぁ少し休憩して下さいませ」
と果実水をグラスに注ぐ。
私と陛下は椅子に座りそれを飲み干した。
「さて、お前が喜ぶものを持って来た」
陛下が懐から封筒を差し出す。
「これは……ローランドからね!」
と私は差出人の名前を見て、声を上げた。
「元気にやっている様だ」
という陛下は穏やかに微笑む。私は早速手紙を開いた。
「ふふふ。毎日野山を駆け回っているって書いてあるわ。随分と体が丈夫になったのね」
「ローランドに必要だったのは、勉強ではなく日の光を十分に浴びて体を動かす事だったのかもしれないな。ローランドを病気がちにしたのは他でもない、この環境だったのかもしれん」
と陛下は王宮を眺めた。
「二人とも仲良くやっている様ですね。……良かった」
「ラッセルもスーザンもローランドをとても可愛がってくれている様だ。そう言えば友達が出来たとも書いてあったな」
「まぁ、本当ですね。手紙からも嬉しさが伝わってくる様です」
「今まで友と呼べる存在など居なかったからな。……ローランドをラッセルに預けて良かったよ」
「確かに。ローランドはあまり王の座に興味はない様でしたから、こうして子どもらしく過ごしている様子を見ると、あの時のローランドの決断は正しかったのだと思えます」
「俺だって別に王の座に興味はなかったけどな」
という陛下の手を私はそっと握る。
「今、陛下は陛下にしか出来ない事をやろうとしています。それだけでも陛下が国王になった意味があると思いますよ」
「そうだな。この国を大きく変えていきたい。そう強く思う様になったのは、お前と、アイザックの存在が大きい。アイザックに残すこの国を、平和で豊かな国にしなければな」
と陛下はもう一方の手で私の手を包み込む様に握った。そして、
「苦労をかけるかもしれないが、これからも俺と共に歩んでくれ」
と私に言った。
「もちろんです。ずっと側におります」
と言った私の手に力が籠もる。
「痛てて、どうした?そんな強く握って」
と不思議そうにする陛下に、
「えっと………陣痛が始まったかもしれません」
と私は告げた。
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