貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
124 / 127

124話

しおりを挟む
お腹がどんどんと大きくなって、もう少しで産み月という頃、私はやっと王妃教育を終えた。

「これで私が教える事は全て終了です。しかし、王族というのは、日々勉強。これからも精進なさって下さい」
とサイラス女史は自身の眼鏡をクイッと上げた。

「右も左もわからぬ私をご指導下さりありがとうございました。私は決して出来の良い生徒ではありませんでしたが、何とか王妃として陛下の横に並び立つ事が出来ているのも、根気よくお付き合い下さいましたサイラス女史のお陰です」
と私が微笑めば、

「妃陛下の頑張りが全てです。最初はどうなる事かと思いましたけど」
とサイラス女史は少しだけ口角を上げた。……笑っているのかしら?笑顔なんて、初めて見たかもしれない。




「先日、王妃教育が終了したと聞いた」

「はい。やっとですが」
と私が苦笑すれば、

「これは内緒にしておけと言われたんだがな、王族の教育というのは、本来なら何年もかかるものなんだぞ?」
と陛下はいたずらっぽく笑った。

庭を陛下と腕を組んでゆっくりと散歩していた私は、陛下のその言葉に思わず立ち止まる。

「え?そうなのですか??私はてっきり自分の出来が悪く、人より時間がかかっているものだとばかり……」

「お前は決して出来が悪かった訳じゃない。だが、褒めると調子に乗るからとサイラス女史が」

「『根性だけはある』と言われたので、てっきりダメダメな生徒だとばかり思っていました。すっかり騙されましたわ」
と私が口を尖らせば、陛下は

「まぁ、サイラス女史流のやり方なのだろう」
と笑った。

「でも厳しくしていただいて正解だったと思います。私、こう見えても負けず嫌いなので」
と言いながら、私と陛下はまたゆっくりと歩き始めた。

庭のガゼボにたどり着くと、マーサが待っていた。

「さぁ、さぁ少し休憩して下さいませ」
と果実水をグラスに注ぐ。

私と陛下は椅子に座りそれを飲み干した。

「さて、お前が喜ぶものを持って来た」

陛下が懐から封筒を差し出す。

「これは……ローランドからね!」
と私は差出人の名前を見て、声を上げた。

「元気にやっている様だ」
という陛下は穏やかに微笑む。私は早速手紙を開いた。

「ふふふ。毎日野山を駆け回っているって書いてあるわ。随分と体が丈夫になったのね」

「ローランドに必要だったのは、勉強ではなく日の光を十分に浴びて体を動かす事だったのかもしれないな。ローランドを病気がちにしたのは他でもない、この環境だったのかもしれん」
と陛下は王宮を眺めた。

「二人とも仲良くやっている様ですね。……良かった」

「ラッセルもスーザンもローランドをとても可愛がってくれている様だ。そう言えば友達が出来たとも書いてあったな」

「まぁ、本当ですね。手紙からも嬉しさが伝わってくる様です」

「今まで友と呼べる存在など居なかったからな。……ローランドをラッセルに預けて良かったよ」

「確かに。ローランドはあまり王の座に興味はない様でしたから、こうして子どもらしく過ごしている様子を見ると、あの時のローランドの決断は正しかったのだと思えます」

「俺だって別に王の座に興味はなかったけどな」
という陛下の手を私はそっと握る。

「今、陛下は陛下にしか出来ない事をやろうとしています。それだけでも陛下が国王になった意味があると思いますよ」

「そうだな。この国を大きく変えていきたい。そう強く思う様になったのは、お前と、アイザックの存在が大きい。アイザックに残すこの国を、平和で豊かな国にしなければな」
と陛下はもう一方の手で私の手を包み込む様に握った。そして、

「苦労をかけるかもしれないが、これからも俺と共に歩んでくれ」
と私に言った。

「もちろんです。ずっと側におります」
と言った私の手に力が籠もる。

「痛てて、どうした?そんな強く握って」
と不思議そうにする陛下に、

「えっと………陣痛が始まったかもしれません」
と私は告げた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...